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かなり昔に書いたものなのでレベルは低いのですが、とりあえず通訳を概観するにはいいかと思います。


通訳とはいかなる作業か
 異言語間コミュニケーション・ツールとして

                                  永田 小絵

はじめに

  国際化の進展にともない、異文化コミュニケーションにおける通訳の果たす役割がますます重要になってきている。内外で開催される国際会議においても、あるいは年を追うごとに増大する輸出入貿易などの経済活動の場においても、通訳によって行われる言語情報の相互伝達は膨大な量に達するであろう。また将来、日本語が国連の公用語になれば日本語−外国語間の情報伝達を如何に要領よく正確に行うかという問題が、さらに重要視されるに違いない。

 しかしながら、古来より我が国は「言挙げせぬ国」といわれ、「音声言語によるコミュニケーション」を低く評価してきた。また、自国の独自性を強調するあまり、外国人に理解されることを半ばあきらめ、半ば拒否してきたようにも感じられる。そして、外国人との交流のなかで、「理解されないことを喜ぶ」というような、些か歪んだアイデンティティーの確認方法までが生まれてきている。「日本人にしかわからない」というせりふを口にする時、人々は同国人どうしの連帯感に喜びを感じこそすれ、外国人との交流が成立しないことを悲しんだりはしない。

 一方では国際間コミュニケーションの重要性を唱えながら、他方では「外人に理解されまい」とする矛盾した意識を有する日本で、通訳という職業にはどのような問題点が存在しているのだろうか。

  これまで日本では通訳に関する研究はあまり行われてこなかったため、日本人による論文はあまり発表されていないし、海外の通訳に関する研究論文もほとんど紹介されていない。しかし、日本が鎖国を解き、ひろく国外の技術や文化を導入してきた近代化の道のりのなかで、通訳者が果たした役割は非常に大きいことは疑うべくもない。また昨今は特にアジ諸国との関係において、我が国は様々な分野で自国の経験を語り、正しく現状を紹介することが求められている。 言語を異にする二者が抽象的な「思想」の伝達を行なおうとするとき、通訳者の存在は不可欠である。通訳とう行為が異文化・異言語間のコミュニケーションにとってどのような役割を果たすのか、通訳者が介在することによってコミュニケーションはどのように変化しているのかを研究することによって、よりよい対外関係を築く一助としたい。

 

第1章 通訳を概観する

1.1 通訳を介して意思を伝える

 どの国の言語にも必ずあるのは単語と文法である。
 しかし、一国の言語を形成する宇宙においては、単語と文法以外の様々な要素(コンテクスト)が関連しあい、複雑な体系をなしている。しかも異言語間ではそれぞれの単語が意味する概念も完全には一致せず、コノテーションも異なる。

 異言語間のコミュニケーションを成立させるためには外国語の記号体系を正確に把握しなければならないのは言うまでもないが、同じ言語を話す人々がすべて全く同じ記号体系を共有しているか、というとそうでもない。日本人どうしでも「話が通じる(ない)」ということがあるように、「意志が伝わるかどうか」あるいは「ある目的があって相手に働きかけたとき、相手がその目的を理解できるかどうか」ということは記号体系の理解だけでは決まらない。如何に努力して正確にことばを運用しても、厳密に言えば、「完璧に意思が通じる」ことなどない、と言っても過言ではない。我々は自分の心のなかにある概念をすべての情況において完璧に記号化する(ことばに表す)術を持たないし、聞き手がそれを我々の期待どおりに受け止めることも容易には達し得ない。

 我々は意味を理解するために「意を汲んだり」「行間を読んだり」(コンテクストを参照する)、「声色や表情を観察する」(パラ言語及び非言語に示されたメッセージをとらえる)。つまり聞き手の想像力も動員してやっとコミュニケーションが成り立つのだ。とりわけ、日本には「察しの文化」があると言われている。日本語は極めてコンテクストに依存する言語である。聞き手が発言者に関する知識を何も持たなければ、あるいは発言の内容について全くの門外漢であるとすれば話は通じにくい。

  同じ言語を話す者どうしでさえ危ういコミュニケーションの成立を通訳者を介在させて行うとは、何と危険なことであろうか。あるいは、通訳が介在してもコミュニケーションが成り立つとは何と素晴らしいことであろうか。

 我々通訳者は良い伝達をしたいと願っている。「発言者の心の中にある概念と、聞き手の心のなかに作り出された概念がほぼ同じ」であることを目標にしている。つまり「うまく通訳した」ことを「聞き手の受け取ったメッセージが、発言者の聞き手に与えたいと思ったメッセージとほぼ同じである」こと、と定義している。このような理想的な通訳を実現するための条件は何だろう。

1.2 メッセージの伝達

 次にあげる図は三者二言語モデルの図式は、通訳の最も基本的な原理を表している。
 三者二言語モデルの図式(Kirchhoff.1976)

32mo.gif (7028 バイト)

  即ち、異なる言語を使用する発信者(話し手)と受信者(聞き手)の間にコミュニケーションのインターフェースとなる通訳者が介在する。発信者は受信者に向かって伝達したいと考えている概念をコード化して発信する。通訳者はそれを認知し、別の記号体系に転換して再度コード化して受信者にデリバリーする。ここで強調したいことは、単語の置き換えが意味を正しく伝達することと必ずしもイコールではないということである。

 「ことば」を発言者の概念の記号表現としてとらえ、記号内容の伝達がコミュニケーションの成立であるとすれば、発言者の意図を聞き手に伝えるのに用いる記号を限定する必要はない。通訳者に対する最も普遍的な誤解は単語を外国語に置き換えることで意味を伝えているという思い込みである。しかし、通訳者は狭義でのdecoder ではない。

 通訳作業に「言い換え」(paraphrase)というものがある。コミュニケーションの成立を助けることが通訳という作業の命題であると規定すれば、発言をとりまくすべてのコンテクストを参照して訳出表現を選択する必要が生じる。「発言者が聞き手の心に作り出したいと考えているイメージをほぼ正確に再現する」ためには、聞き手の受け入れやすい表現を工夫しなければならない。直訳は聞き手に理解されにくく、負担を与える場合が多いからである。

 しかし「通訳者はことばを単語ひとつひとつの単位で外国語に変換している」と思い込んでいる発言者は「私の言うとおりに訳せばいい」と言う。あるいは、両国の言語がわかる出席者に「違う言い方をした」と指摘されることもある。このような発言によって、多くの人々が通訳者を単語をつぎつぎに外国語に変換する機械のようなものだと認識していることがわかる(「直訳でやってください」とか「逐語でお願いします」などと依頼されることもある)。次にいささか不思議な例をひとつ紹介したい。


[逐次通訳による言い換えの実例](筆者の通訳経験から)

A:発言者のことば(日本語)B:訳されたことば(中国語)

A:「この薬品を加えますと、納豆のように糸を引くようになります」
B:「添加這個薬品的話,像抜糸蘋果那様,産生粘性。」
Bの直訳:「この薬品を添加しますと“リンゴの飴からめ”のように粘性が生じます」

 聞き手である中国人に納豆を食べる習慣はないが、“リンゴの飴からめ”(抜糸蘋果)という料理はポピュラーである。納豆についてくどくどと説明することが目的ではなく、粘って糸を引く様子を視覚的なイメージに訴えたいという目的があると考えられるので、納豆→抜糸蘋果の言い換えは許容できるだろう。 しかし…、発言者は「お国にも納豆があるのですか!」と目を見開いた。

 ここには矛盾する二つの要素がある。発言者は通訳者は自分の発言をそれこそ単語レベルで置き換えていると思い込んでいる。そして自分の用いた「納豆」ということばによって聞き手が理解したことに驚いている。もしも通訳者が単語レベルで直訳していると思っているのなら、聞き手に理解され難いことを承知で「納豆」を使うのは矛盾している。

 もしもこの時、筆者が発言者に対して「納豆」では分からないので言い換えた、と告白しなかったら、彼は永遠に「中国にも納豆がある」と誤解したままだったろう。ひょっとしたら、他の人にも「おい、知ってるか、納豆のルーツは中国なんだぜ」と吹聴することになったかもしれない。するとこの言い換えは話し手に対して忠実さを欠いていた、と言わざるを得ないのかもしれない。オリジナルの意図さえ伝われば言語表現はどうでもいいのか。最近流行の「超訳」は時として所謂「不実の美女」(素晴らしくこなれた訳で非常に聞き/読みやすいが原文に忠実でない)であり、翻通訳者の越権行為とも受け取ることができる。次にこの問題について考えてみたい。

1.3 「忠実さ」・「正確さ」・「聞きやすさ」

 科学的に通訳の研究をしようとするときに最もおかしやすいミスは、訳出が「正しいかどうか」を調べるためにもとの発言と訳出された表現を対照して、言葉ひとつひとつが訳されているかどうかを機械的に統計することである。このような実験では「直訳」「逐語訳」がもっとも高い評価を得ることになる。しかし実際に求められているのは、聞き手に負担のかからない「聞きやすい」通訳である。経験豊富なベテラン通訳者は発言者のメッセージを最も効果的に再現するために、聞き手に負担をかけない「聞きやすい」通訳を行なおうと心がける。発言者にとっても発言の意図が十分に聞き手に受け入れられる通訳が良い通訳となるはずだ。どのような通訳がオリジナルに忠実でしかも聞き手にとって理解しやすいか(話し手と聞き手の評価が重要だが)について以下に分析する。

●通訳によってメッセージは歪められるか 

 通訳者を使って聞き手とコミュニケーションを行なう際に、発言者がもっとも心配することは、自分の意図が正確に相手に伝わるかどうかという点である。

 意味内容を伝達する、という意味では、通訳の際には「あのう」「ええと」や二度以上繰り返されたことばはredundancy(冗語)と呼ばれて切り捨てられるのが普通だ。しかしredundancyはまったく「意味を持たない」のだろうか。心理学的に考えれば、「パラ言語」にも相当に重要な意味が隠されているはずである。口ごもったり、同じ単語を繰り返したり、急に早口になったり、等など、これらの要素は通訳者によっては伝えられていないし、通訳者も伝える必要性を(通常は)感じていない(但し、法廷通訳の場合は非言語情報をも伝えるように要求される)。

 このように通訳者の理解によって「意味を持たない」ことばとして捨てられてしまうものがある一方、発言者の意図以上の意味で受けとられてしまい通訳者にover-translateされてしまうこともある。発言者・通訳者・聞き手の三者がすべて人間であるという条件のもとではテレビ放送で電気信号にencodeされた映像が受像機によってdecodeされるようなわけにはいかない。

 もしも、発言者に忠実であることをあまりに意識しすぎ、単語の置き換え的直訳で通訳を行うと、それは「忠実な醜女」となる。逆に、聴取者の耳に快いことだけを追及し、発言者の持つ文化的背景に関わる「訳しにくい」言い回しを全て聞き易く言い換えてしまうと「不実の美女」になる。

 「忠実な醜女」と「不実の美女」、さて、どちらを選ぼう?

Wilss (1982年)の図式では下記のように説明している。

wills.gif (6719 バイト)

@:全ての点でバランスがとれている。即ち、型式/内容ともにSLに大体忠実で、しかもTLとしても聞きにくくない。
A:SLに忠実であろうとするあまり、TLとしては聞きにくく、伝わりにくい。
B:TLとしての完成度を求めるあまり、TLとしては非常に耳に快いが、SLに忠実でなくなっている。
C:内容よりもどのように話されたのかという点だけを重視している。
D:内容だけに重点を置き、どのように話されたかを軽視している。

 「忠実な醜女」と「不実の美女」のどちらがよいか。もちろん「忠実な美女」が一番好ましい。しかし、上図によると、通訳・翻訳されたものは結局「そこそこ十人並みで、気立てもまあ悪くない」程度を目指すしかないようだ。

 さて、以上は通訳者が発言の意味内容を聞いて理解したことを前提としている。とはいえ、通訳者が発言のメッセージを解釈して伝えていることに変わりはない。

●コンテクスト依存型の発言の処理方法

 クリントン米国大統領がロシアの代表に対し「日本人のイエスはしばしばノーを意味する」と話したことが問題になったことがあった。仮に通訳者がこのような認識をもって日本人の発言に表れた「イエス」を「ノー」と訳したらどうなるだろう。通訳者は発言の意味を誤解したわけではなく、逆に発言の真意を深く理解したからこそ「ノー」と訳したのかもしれない。たとえば、「帰国後よく検討してみましょう」というような発言は、日本人にとっては、情況によってはしばしば「ほとんど希望がない」という意味にとらえられる。かといって、通訳者が「おそらくご期待には添えないでしょう」と訳すことは絶対にと言っていいほどありえない。通訳者にはそのような危険を冒すほどの勇気はない。

 もし通訳者の解釈によって断定的な言い方で訳したとすれば、それは聞き手の印象を左右することになり、発言者に忠実な通訳とはいえない。発言者も(たとえ本心はそうであっても)「そんなことは言ってない」と通訳者を責めるだろう。あいまいな発言、婉曲な表現は聞き手にぼんやりとした印象しか与えたくないという発言者の意図を含んでいる場合が往々にしてある。通訳者が「訳しにくい」と感じる発言は、「コンテクスト依存型」の場合が多い。記号表現としてコード化されないメッセージがある場合は、通訳者はそれを解釈して発言の意味をつかむことになるが、通訳者の解釈に対する反論もあろう。

 「意味がわからなくてもとにかく言ったとおりに訳せばよい」という言い方は通訳者の解釈によってもとの発言に「忠実」でなくなることを危惧するところから生まれると思われるが、「意味がわからなくてもとにかく言ったとおりに訳せばよい」というのは、取りも直さず聞き手に対し「意味がわからなくてもとにかく聞いておればよい」と言い放つに等しい。

 逆に通訳者に解釈を委ねる発言者もいる。曰く「口下手でうまく説明できないが通訳者に適当に解釈して訳してもらいたい」、あるいは「もし相手の国のタブーに触れるような言葉があったら適宜修正して訳してほしい」。正直に言えば、ほとんどの通訳者はすでにこのような作業を行いながら通訳をするのが常である。それは「聞き手」への配慮から生まれるものであって、決して意味を歪めて伝えているわけではない(と思いたい)。

 また、別の側面から見ると、これは通訳者の「聞き方」の問題に関連してくる。通訳者がどのように発言を聞くかに関しては第2章「通訳の方法」の中で詳述したい。

 次に例外的に「単語置き換え」が必要になる場合について簡単に述べる。

●コード依存型の発言の処理方法

 コードの解読で理解できるもの、たとえば科学技術関係のテクニカル・タームについては単語から単語への置き換えをしなくてはならない。とりわけ「てにをは」以外はすべて専門用語で話されるような技術者の発言を「意訳」できるような能力を有する通訳者はほとんどいないであろうし、また意訳する必要もない。技術者どうしの会合のなかで、通訳者だけが発言の本当の意味するところを理解できないという情況が往々にしてあるが、これは通訳者が自身でははっきりと解釈のできない専門用語を忠実に「単語置き換え」していることに起因する。したがって、技術関係の通訳の際にもっとも注意すべきなのはこれらの専門用語の訳し方を正確に行なうことである。


第2章 通訳の方法

 現在一般に採用されている通訳の形式としては下記の三つの方法がある。

2.1逐次通訳(一文ごとの逐次通訳および一段落ごとの逐次通訳に分類)

2.2同時通訳(ブースと機械設備を使用する同時通訳と一人か二人の聞き手の耳元でささやいて通訳する方法に分類)

2.3放送通訳(時差同時通訳・生同時通訳)

 以下に上記三方法の特徴について述べ、あわせてコミュニケーション効果を検討する。

2.1逐次通訳

 逐次通訳の原理は下図によって説明されるように、発言者と通訳者が交互に話をする方法である。通常、二種類の言語間で行われる。

逐次通訳(CI:CONSECUTIVE INTERPRETATION )
    @(分析的な聞き方) → A(整理された伝達)
 (S)              (T)
 スピーチ  1  2   3  4 →/通訳 論点1・2・3・4 … →/@→Aの繰り返し 

 これは基本的な逐次通訳を表している。発言は通常いくつかの相互に関連するメッセージから構成されており、通訳者はその一つ一つのメッセージとそれらの関連を分析しながらスピーチを聞き、聞き手が最も受け入れやすい形に整理してデリバリーする。

 逐次通訳は、発言に要する時間によって次のように分類される。

2.1.1 一文ごとに訳出する逐次通訳(以下「単文逐次」と称する)

 発言者が一文話すたびに通訳する方法。前ページの図で言えば、S1→T1→S2→T2…と連続する形になる。発言はおよそ数秒から十数秒で区切られ、単文を数十秒間にわたって話す発言者はほとんど見られない(逐次通訳の録音による分析)。

 通訳を使い慣れていない発言者が通訳者の便宜を考えて単文通逐次を採ることがあるが往々にして逆効果となる。発言者はおそらく単文で訳出させたほうが通訳者の記憶力の負担とならず、発言を「完全に」あるいは「忠実に」訳出することができると考えているのであろうが、通訳者にとっては一つのまとまった意味概念(メッセージ)を為さないことばを訳すことは相当な苦痛である。とくに「コンテクスト依存型」の発言において単文で発言を切られてしまうとどう訳せばよいのか見当がつかないことがある。一言づつ訳出する問題点は、非論理的で整理されていない(わかりにくい)発言がそのままわかりにくい通訳になってしまうことである。このような単文逐次を採用しようとする場合は、一般に考えられているのとは逆に発言原稿を事前に提供しておくほうがよい通訳ができる。

 またすべての発言をそのまま訳出するため通訳時間が長くかかること、発言を一言づつ区切るため発言者の思考が中断され話しにくいこと、聞き手にとってもまとまった概念を捉えることができない、などの問題点がある。以上は発言者の一方的な情報提供における単文逐次の欠点であるが、逆に単文逐次が最も効果を発揮できる場合もある。宴会やパーティーで飲食をしながら簡単な会話が行なわれる時には、短い問いかけと回答が繰り返される、いわゆる「ことばのキャッチボール」が行なわれるので単文逐次の通訳になる。この場合は通訳者も記憶力の負担を気にせず、メモをとることもなく速やかに訳出できる。効果的なコミュニケーションという角度から以上をまとめると次のような結論を導くことができよう。

                                          
発言者の一方的な情報提供の場合には単文逐次は採用するべきでない。   
単文逐次は簡単なあいさつなど限られた場面で効果を発揮する。

                                          
2.1.2 段落ごとに訳す方法(以下「長文逐次」と称する)

 ひとつの、あるいはいくつかのメッセージを含む段落ごとに訳出する、前ページの図に示した方法である。時間的な長さは一般的におよそ一分から三分、時には多数のメッセージを含む談話を十分から二十分にわたって話し続けることもある。

 長文逐次の場合、通訳者は発言を聞きながら発言の意図を探り、論旨展開を分析して最も効果的に訳出する方法を選択する。通訳者の「聞き方」は発言のメッセージを捉えることに集中し、ひとつひとつの単語には拘泥しない。比較的短時間の長文逐次の場合は通訳者の記憶力にもさほどの負荷がかからず、発言内容を漏らさずに訳出することができるが、発言が数分間以上にわたる場合には発言を聞きながらメモを取り、訳出の際には通訳メモによって記憶を喚起する必要が生じる(但し、発言がどの程度の長さにわたるかは発言者自身にもわからない場合がほとんどであって、通常通訳者は発言の長短にかかわらず多少なりともメモをとる習慣をもっている)。

 長文逐次は通訳者に発言を理解し、分析し、整理する時間を与えてくれる通訳方法であり、ときには非論理的でわかりにくい発言を論理的でわかりやすい演説にかえることすらある。これは前述の単文逐次も後述の同時通訳も決してなし得ない、通訳の芸術であるとも言える。当然のことながら、非常に論理的なすばらしい演説で、しかも通訳者の記憶力に過度の負荷を与えない時間で区切ることができれば、訳出された結果も最も効果的である。また、時間の節約を図りたい場合は、比較的長時間の長文逐次を採用し、通訳者に要約通訳させるということもできる。要約通訳は理解力と分析力がなければ不可能であり通訳者の負担はかなり大きいが、聞き手にとっては要領よく整理された情報を受け取ることができこれも非常に効果的な方法といえる。

但し通訳者に情報を取捨選択する権利を委ねるというリスクをともなう。長文逐次に関する結論は、下記のとおりである。


【逐次通訳のメモ】

 逐次通訳において通訳者がとるメモは、ノートテイキングと呼ばれる。逐次通訳の際のノートテイキングは記憶を補助する役割を果たすものであり、もし発言の内容を全て正確に記憶できるのであれば書き留める必要はない。しかし、非常に短い発言(30秒以下)でなければ全てを記憶してしまうことはほとんど不可能であろう。

 従って発言の開始と同時にノートをとる用意をしておくべきである。プロの通訳者はそれぞれ自分の使いやすい記号や略号をノートテイキングに活用しており、ノートのとり方は個人差のあるもので決まった方法はない。これらの記号・略号・絵などはSLからTLへ変換する際の中間言語であると考えることも可能である。

 筆者自身の逐次通訳ノートから、使用頻度の比較的高い記号・略号等を拾いだし、分類整理してみた。その結果、以下のような傾向があることがわかった。

1.記号を使用する際には、その記号から連想される意味を利用している。
2.略号・略語の利用は時間の節約ということに最も重点がおかれている。
3.絵は自分が受け取ったイメージを代表している。

 数学・交通標識・矢印やその他の雑多な記号に、通訳を行う文脈の中で明確な一つの意味を持たせることができ、しかもどちらの言語にも属さないので言語による干渉を避けることもできる。絵によって発言の内容を表す方法は効果的ではあるが、話の内容を映像化することがひどく苦手な場合や、発言を聞きながらどんどんノートをとっていかなければ不安に感じる人には向かない。

 次に実際に用いられた記号・略号・図案等の中から一部を紹介したい。

1.記号から連想される意味を利用するもの
@数学の記号:+ 加える・利益・正      = イコール・同等
       − 引く・欠損・負       ≒ 大体同じ 
       ±0 変化なし         ≡ 完全に同じ 
       × 掛ける・倍増        ≠ 同じでない 
       ÷ 割る・分ける・分担する  a<b aはbより小さい
       ∴ 従って・結果は      a>b aはbより大きい  
       ∵ なぜなら・理由は      ∠ 角度  

Aその他記号:? 質問・疑問・問題・不明   ! 強調・驚き 
       〆 しめて・合計        @ それぞれ・単価・ひとつひとつ
       ∞ 無限・無制限        ♂ 男性 
       ◎ たいへん良い・重要     ♀ 女性 
B矢印:  → 輸出・提出・出発・譲渡・結果 ⊃ 戻る・帰る・撤回・回収
      ← 輸入・受理・到着・受領・理由 |→ 開始する
      →←  対立・衝突        →| 中止する・終了する
      ↓  以下             / 上昇・増加・進歩
      ↑  以上             / 下降・減少・退歩 
      ‖→ 〜からは・今後は        
C英文略号等:BSNS ビジネス   PLN 計画      BK 予約
       COY  会社     EXP 輸出      CK 調査
       KK   株式会社   IMP 輸入      GOV 政府
       FD 食品・食糧    TEX 繊維      COM 物資
       ASAP 早急に    P.P パスポート・国籍
       P.S. 補足して   P   国家・国民
       am 午前       y   年       wk  週
       pm 午後       mth 月       dy  日
       h   時       min 分       sec 秒
       cf.  参考・参照  PLS お願いします  Q&A 質疑応答
       ex.  例えば・例証 TKS 感謝      BCZ 理由
       esp. 特に     O.K.同意・許可
       etc. などなど   YRSK よろしく
       ie.  言い換えれば W だぶる・重複する
       usu. 一般的には  vy 非常に・とても
   国名: CHN 中国       KOR 韓国   UK イギリス
       ROC 中華民国・台湾  JPN 日本   US アメリカ
       HKG ホンコン     SPL シンガポール  

D絵によるイメージの表現  (インターネット版では省略)

●逐次通訳ノートテイキングの特徴

1.即時記録性:発言を聞きながらメモをとるため、原発言から受け取ったメッセージを
        即座に書き記せるものでなければならない。
2.即時転換性:ある言語から別の言語への転換の仲立ちをするものとして、発言に含ま
        れるメッセージを即座に見てとれるものでなければならない。
3.構造明示性:目標言語への転換後に伝達されたメッセージは起点言語の有する論旨展
        開の構造を明らかに再現するものでなければならない。
4.一時記録性:通訳終了後の閲覧や議事録に供する目的を持たず、メッセージを一時的
        に記して訳出する際に記憶をリコールする役割をもつメモであるため、
        保存性は求められない。

 以上の特徴から、逐次通訳のメモは速記・議事録・翻訳とは全く性質の異なる作業であることが明らかである。

2.2同時通訳

 同時通訳では、情報の単位ごとに変換処理が行われる。同時通訳については、下記の条件によって分類する。

2.2.1 機械設備を使用する同時通訳で完全な発言原稿があるもの
      (以下原稿付き同通と称する)
 完全な発言原稿(ベタ原稿)があり、それを読み上げる形式である。「論文発表」と呼ばれ「講演」とは区別される場合が多い。論文発表の場合には事前に通訳者に原稿が提供され、場合によっては論文の翻訳も用意される。翻訳が提供された場合は、通訳者はブースの中で発言者の声を聞きながら翻訳文を読むことになる。文章を読む速度は普通の講演に比べてかなり早くなり、聞き手が完全に発言のメッセージを消化できないという問題点がある。また、翻訳文が用意されない場合は発言者が論文を読む速度に同時通訳がついてゆけなくなることも多く、ベタ原稿の存在が却ってコミュニケーションを阻害する。

 論文発表における読み上げは発言の内容をすべて忠実に訳出する最も「正確な」通訳であると思われがちであるが、文章語はあくまでも口頭語のような生き生きとした臨場感に欠け、居眠りをする聴衆を増やすという状況をつくることになる。ベタ原稿の読み上げは国際会議においては日本人のお家芸で、時にはただ下をむいて原稿を読むだけで聴衆をちらとも見ない発言者がいるが、このような発表は独り言といっても過言ではなく、コミュニケーションは完全に失敗する。ベタ原稿はあってもかまわないが、発言者はそれを棒読みにするのは絶対に避けたほうがよい。

2.2.2 機械設備を使用する同時通訳で発言原稿のメモがあるもの
      (以下メモ付き同通と称する)
 メモ付き同通はあらゆる国際会議で最も多く採用される形式である。講演者は事前に発言要項を提出し、発表の前に通訳者とブリーフィングを行なうことが一般的である。

 発言者は時々メモを見ながら自分のことばで生き生きと話し、聴衆の反応を観察することができる。講演はひとりが多数の聴衆に向かって一方的に情報を与えているように見えるが、実は聴衆の反応は発言者へのフィードバックとなっており、発言者は聴衆がうなづいたり、くびをかしげたり、よそ見をしたりする反応を見ながら双方向のコミュニケーションを行なっているのである。このような発言形式であれば通訳者も発言者から提供されたメモにもとづいて話しことばで聴衆に語りかけることが可能で、聞き手も消化不良を起こさずに興味深く話を聞くことができる。また、もうひとつの重要な要素として、どんなに話のうまい人でも、話しことばには必ず「えーと」「あのう」あるいは言いなおしや重複などのredundancyがあるため、通訳者はこの時間を利用してより適切な訳語を選択し、文章を構築する余裕が生まれなめらかな通訳が可能となる。

2.2.3 機械設備を使用する同時通訳で原稿やメモがないもの
      (以下原稿なし同通と称する)
 講演のテーマだけが示されて原稿やメモがないものである。原稿が提出されなくとも、事前に講演者と通訳者の詳しい打ち合せがあり、ごく自然な話しことばでやや遅い速度で発表が行なわれれば、プロの通訳者はそれほど問題なく同時通訳ができる。但し、非常に難解な専門用語が頻出するような発表ではやはり原稿なし同通は無理である。ごく一般的な内容で理解しやすいものにかぎって原稿なし同通を採用してもよいと考える。

 原稿なし同通でいちばん困ることは、通訳者の手元には原稿が届いていないのに発言者が原稿を持っていてそれを読み上げた場合である。発言の内容によっては企業秘密などの理由から外部に情報が漏れるのを恐れて資料を出さないこともあるが、これは発表が終わってから回収することで解決がつく問題であり、通訳による質のよいコミュニケーションの成功を目指すのであればやはりメモ程度の資料は提供するべきであろう。

 この他、発表が終わったあとの質疑応答ではほとんど原稿なし同通を行なうことになる(ほとんど、と断った理由は、時には聴衆から回収した質問票のコピーが通訳ブースに届けられることがあるからである)。質問者はそれまでの発表を通訳の声を通して聞いていたにもかかわらず、自分の質問も通訳をつうじて発言者に伝えられることを全く意識していないし、しかも頭のなかで聞きたいことをきちんと整理する前に手をあげて話しだしたり、質問と言いながら自分の意見を長々と発表することが非常に多い。通訳者にとって最も頭の痛いのがこのような「わけのわからない」質問である。したがって、質疑応答をさらに効果的に行なうために、講演開始前に質問票を配布し、聴衆が疑問を感じた時に随時記入して会場のスタッフに手渡し、さらに通訳者の手元に質問票のコピーを届けるようにするのがよい。聴衆は質問票に記入する際に自分が何を聞きたいのか整理することができるし、司会者は一部の「とんちんかんな」あるいは「質問になっていない個人的意見」を排除したりでき、また質問票を読み上げるときには通訳者もそのコピーを見ているのでスムーズに通訳ができる。国際会議で質疑応答がちぐはぐになるという問題点は、通訳者の予想をはるかに超えるおかしな質問が出ることに主な原因があるが、これは質問票によってメモ付き同通にかえることで改善できよう。

 上述からわかるように完全な原稿なし同通はコミュニケーションの成立にはあまり効果的でない。発言者と打ち合せがあった場合は通訳者は発言内容や話の順序を自分でメモするわけで、結局はメモ付き同通をすることになり完全な原稿なし同通は非常に稀である。

2.2.4 一人か二人の聞き手の耳元でささやいて同時通訳する方法(以下ささやき通訳と称する)

 発言に使用される言語がわからない参加者が一人か二人だけしかいない場合にはわざわざブースや同時通訳設備を設置せずにささやき通訳で済ますことができる。

 これはテレビ番組に招かれた外国の俳優や歌手の耳元で通訳者が行なっている形式である。長所としては、機械設備が不要なこと、逐次通訳に比べて時間の節約になること、イヤフォンを通さない肉声なので聞き手がさほど疲労を感じずに済むことと、通訳者がすぐそばにいるので居眠りやよそ見がしにくく結果的に注意して発言をきくことになるという点である。短所は数人以上の聞き手がいる場合は使えないことである。

 また、ささやき通訳は一対一のコミュニケーションであっても、双方向に行なうことはなく、どちらか一方を逐次通訳にするのが一般的である。つまり、通訳者はささやき通訳を聞く側(言語的少数派)に対してのみ同時通訳のサービスを行なうという特徴を有している。これは、通訳者のささやき通訳の聞き手の耳になっているのだという意識、および常に聞き手のすぐ後ろに立って通訳を行なう必要があるので、頻繁に位置を変えるのは都合が悪いということに起因していると考えられる。この形式は聞き手に安心感を与える効果を有する。


【同時通訳の実例分析】
 会議の現場でSLとTLを同時録音したテープをもとに、同時通訳の分析を試みた。
[条件]
    SL:日本語、TL:中国語
        ※ SL:起点言語
        ※ TL:目標言語
    通訳者(報告者):経験10年、日本語が母語。
    実例1)原稿つき同時通訳。読みあげ形式のスピーチ
        読み上げの速度はかなりおそい。
        原稿提出は会議当日の約1週間前。
        原稿から離れた話は全くなし。
    実例2)原稿なしの同時通訳。
        資料提供により事前準備、会議前夜に打合せ。
        講演内容の資料は約3週間前に提出された。
        講演資料と実際の講演内容を比較すると、話の順序がかなり変化してお
        り、資料には示されていない新情報も一部追加された。
        話す速度は普通の会話とほぼ同等。

[分析の目的]
    サイトラ−実例1と、原稿なし−実例2で訳出上の相違点があるかどうか
     を観察すること。
    ※ サイトラ:SIGHT TRANSLATION ,文字を見ながら口訳すること

[予測]
    サイトラの場合は、@TLがSLに先行することがある。
             ATLでオミットされる部分が少ない。
             B相対的に正確かつ忠実である。
             C原稿を先読みするため、文章構造を変化させ易い。

注: 次ページからの文中の番号は一応の意味のまとまりとして記入した。

実例1)国際金属労連世界大会でのスピーチの一部。
………………………………………………………………………………………………………
  1私どもが在庫を持たない本当のねらいは2在庫を持たないことでトラブルをトラブル
|← ― ― 7 秒 − − →|1 我們之所以主張零庫存的理由是 *如果 2没有
                  1 我々が在庫ゼロを主張するわけは 2もしも
………………………………………………………………………………………………………
として3発見させる、そしてトラブルの原因を、そのものを 4なくするように、こう、
庫存的話,3比較容易発現,発生問題的根源所在,* 那麼就,4比較容易解決問題。|←
在庫がなければ、3 比較的容易にトラブル発生の原因を発見でき *それで 4問題が解決し
………………………………………………………………………………………………………
させてゆくというわけであります。5私どもの考え方やねらいを 6現地の従業員やサプラ
− − − − − − 9 秒 − − − − − − − → |* 此外 6当地
やすくなるということです。                  * ほかに、現地の
………………………………………………………………………………………………………
イヤーに 7しっかりと理解してもらいさらに8実践してもらうのは 9なかなか大変なこと
的員工和零件供応商 7要譲 *他們徹底理解 5 我們的這個想法, 8 譲他們按照這個想法
従業員やサプライヤー、*彼らに我々のこの考え方を徹底的に理解させ、この考え方にそ
………………………………………………………………………………………………………
でありました。10またNUMMIは1982年に 11 旧BM工場を利用するかたちで設立され
来做事 9這是相当吃力的工作。      10 還有,NUMMI是在1982年11利用
って仕事をさせるのはかなり大変な作業でした。またNUMMIは1982年に、もとのGMの
………………………………………………………………………………………………………
ました。12従業員もその80%が 13旧GMの従業員を採用しての 14スタートでした。
原来的GM工廠而設立的。*開始生産的時候12員工的百分之八十13原来在GM工作過的
工場を利用して設立され *製造開始のときは従業員の80%が以前GMで働いていた
………………………………………………………………………………………………………
15 私どもの考える16労使の在り方、17つまり 相互信頼とか、‥‥‥‥‥‥
14 *我們是這様開始的。15 我們強調的 16 労資関係,17 就是,相互信頼‥‥‥
のです。*我々はこのようにスタートしたのです。我々が強調している労使関係、即ち相互
………………………………………………………………………………………………………

情報単位の倒置:SL5−6−7−8 → TL6−7−5−8
情報のオミット:2 トラブルをトラブルとして, 3 そのものを, 4 というわけであります 11 かたちで 13 を採用しての
TLでの追加 :もしも,それで,ほかに,製造開始のときは,彼らに, 我々はこのように 
TLでの構造変化:1〜4,12〜14
情報の先出し:12 製造開始のときは(SL14の「スタートでした」の先取りと考えられる)

実例2)北京での文化財建築保存技術シンポジウムの発表の一部。

  およそ三週間前に論文が送られてきたので、用語の問題は基本的には解決していた。
  会議前夜に打合せがあったので話の順序は分かっている。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
1 先程瓦は何回も使える、と申し上げました、 2 その瓦を使う技術のひとつとして
          1 剛才我跟 *各位介紹,瓦可以多次利用, 2 這個技術,*最近也有
      先程 *皆様に紹介しましたが、瓦は何度も利用できます、この技術に最近
………………………………………………………………………………………………………
3 古い瓦をもういちど窯の中に入れて焼きなおすという方法がとられています。
了新的技術発展,        * 就是説,3 把古代的瓦再次放進焼瓦的窯里,重新
新しい発展がありました。 つまり、昔の瓦をもう一度瓦を焼く窯に入れて、再度焼き
………………………………………………………………………………………………………
4 これは現在のところ、試験的にやっている、えー、一部で試験してるところでして、
焼制。           * 不過,4 目前這個技術還在試験階段,在部分 *地区進行
いれるのです。     しかし、現在この技術はまだ試験段階で、一部の地域で試験
………………………………………………………………………………………………………
5 うまくいくときは成功します、6 駄目になってしまうときもあります。
試験的階段。             5 有的時候成功,6 有的時候失敗。
しているところです。       時には成功しますが、失敗するときもあります。
………………………………………………………………………………………………………
7 これには条件がひとつありまして、8 昔の瓦の原料のねんどの中に鉄分が多い場合には
            * 但是,7 在這里要有一個条件,* 那就是,
           しかし、これには条件がひとつ要ります。それはつまり、
………………………………………………………………………………………………………
9 焼いたあと、10 瓦の表面に鉄分が浮きだしてきてしまいます。だから、瓦の‥‥
     * 如果 8 古代瓦原料的鉄的含有量很多的話,9 在重新焼制以後,10 在瓦的
      もし、昔の瓦の原料に鉄の含有量が多いと、焼きなおしたあと、瓦の
表面上会冒出鉄的成分,11 所以,瓦的‥‥‥‥‥‥‥‥
表面に鉄の成分が出てきてしまう、だから、瓦の‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
情報単位の倒置:なし
情報のオミット: 2 その瓦を使う, 3 という方法がとられて, 4 えー, 5 うまくいくときは
TLでの追加 :皆様に,最近新しい発展がありました,つまり,しかし,地域, しかし,それはつまり,もし
TLでの構造変化:なし
情報の先出し:なし

[分析結果]
予測@原稿がある場合、TLがSLに先行することがある。
情報先出し:実例1は1例、実例2は0例。原稿なしでは後続する情報の先出しはほぼ起こらないと判断できる。但し、実例1でのTL空白時間の長さから見て、原稿があっても必ずしも先読みしてTLに変換するとは言えない。

予測A原稿がある場合、TLでオミットされる部分が少ない。

予測B原稿がある場合、相対的に正確かつ忠実である。
 情報オミット:比較的重要な情報では実例1,2ともに2例。比較的重要でない情報では実例1が3例,実例2が2例。Aについては予測と逆の結果となった。原稿つき同時通訳では、転換の際に内容の精選が行われると考えることもできる。原稿なしの場合、とっさには情報の重要度の判断がつきかねるため、耳に入った情報は取りあえず全て転換の対象となる。また、実例1,2ともに接続詞の追加が顕著である点は、情報相互の関連を明確に示そうとする補強機能の表れであろう。Bの正確・忠実さについて有為の差は認められない。原稿がなくとも事前準備によって十分に正確な通訳が可能である。

予測C原稿がある場合、原稿を先読みするため、文章構造を変化させ易い。
 情報単位の倒置および文章構造の変化は原稿つきの実例1のみに表れている。予測を証明する結果となった。後続する内容を把握しているため、比較的自由に構文を組み立てることが可能になり、同時にTLへ変換するまでのチャンクが増大する。

●逐次通訳と同時通訳の比較
 以上、一般的な逐次通訳と同時通訳についてそれぞれ分析を試みたが、以下に逐次と同時の差異について考えてみたい。

 同時通訳が逐次通訳よりも優れている点は、@時間の節約になること、A聞き手が通訳者の存在をあまり意識せず、話し手の表情や身振り手振りなどを見ながら話をきけることであろう。一方、逐次通訳が同時通訳よりも優れている点は、@通訳者の論理分析と話題の整理によって聞きやすいなめらかな話を聞けること、A対談において逐次通訳を用いることで、発言者は通訳者が訳出している時間を利用して次にどのように話すかをゆっくりと考えることができることであろう。

 問題点としては逐次通訳では通訳者と発言者が交替で話をすることになるので、ややもすると発言者が通訳者に向かって話し掛けるという状況があらわれる。これは発言者の、@言葉の通じない聞き手に向かって話してもノン・バーバルのフィードバックがなく話しにくい、A通訳者が自分の話の意図を正確に理解しているかどうかを通訳者の表情などから確認したい、という心理のあらわれであると思われる。しかし、やはりこれは発言者と聞き手のコミュニケーションにとって理想的な状態とは言いがたい。なぜなら、聞き手は自分に向かって話しかけられていることが理解できず、話し手は通訳者と雑談をしているように感じられるので、よそ見をしたり、時にはその場に同席している他の人と話し始めたりしてしまうからである。また、通訳者が伝達可能なのは、あくまでも言語情報だけであって、話し手の発信したノン・バーバル・メッセージまでは伝えることができない。

 一方同時通訳では時として通訳者の準備不足・発言者の異常な早口などの時間的制約・話の途中で通訳を始めなければならないために起きる誤解や文法上の不完全さなど、発言にあらわれたメッセージを100%訳出できないことが最大の問題点である。


2.3 放送通訳

 衛星放送の普及にともない、近年脚光を浴びてきたのが放送通訳である。放送通訳が前述1〜2と大きく違う点はテレビというマスメディアを通じて通訳を行なうことである。 即ち、@発言者・聞き手の反応が見られない、A通訳サービスの対象が限定されず、視聴者すべてに受け入れられることばを選ばなければならない、B語彙は放送コードの制約を受ける、Cニュース番組の通訳が中心になるため、発言の速度・密度ともにきわめて高い、D他の通訳形式ではありえない時差通訳という形式が多用される、などが放送通訳の大きな特徴である。次に、放送通訳の時間的構造について説明する。

2.3.1 時差通訳
 通訳者は放送開始前にビデオで放送内容を確認し、時間的に余裕のある場合は完全な翻訳原稿を用意する。一人あたり6〜10分間の内容を1〜2時間以上かけて放送時間内に丁度おさまるように翻訳原稿を作るが、準備時間が少ない場合には完全な原稿を作ることはできない。

2.3.2セミ同通
 準備時間が30分程度しかないもの。ビデオを見ながらメモを取るが、1〜2回ぐらいしかビデオをプレビューできない。

2.3.3 同時通訳
 毎日放送される二か国語ニュースでは時差通訳方式が用いられるが、突発的な事故や重大な発表などでは、完全な同時通訳が行なわれる。これは、生同通と呼ばれるもので、原理的には普通の同時通訳と同じなのだが、やはりテレビというマスメディアを通じての情報提供であるため、前述のようなさまざまな制約を受けることになる。

●放送通訳と一般会議通訳の相違点
 国際会議やシンポジウムでは特定のテーマのもとに発表が行なわれ、通訳者はそのテーマにそって事前準備を行う。発表内容はかなり専門的である。放送通訳の場合は時事問題であるという以外テーマが特定されない。通訳者は常日頃からあらゆるメディアを通じて世界情勢をキャッチアップしておく必要がある。いずれも事前準備が最も重要な仕事であるが、会議通訳は会議開催前の一定期間内に集中して予習するため短期決戦型の通訳者に向いている。放送通訳は不特定多数の視聴者むけなのでどちらかと言えばアナウンサー的な資質とジャーナリスト的な興味を持った通訳者が担当したほうが効果的であろう。

●放送通訳の今後の課題
 『放送研究と調査』誌(1991年8月号)に掲載されたアンケート調査結果によると、
「通訳よりも字幕のほうが好き」と答えた視聴者が55%に達している。その理由は、
 @同時通訳を聞くのは疲れる、A通訳の日本語に不満がある、B同時通訳は声が違い過ぎるなど不自然な場合がある、C外国語をそのまま聞きたい、D字幕のほうがわかりやすい、E字幕のほうが親しみやすい、F字幕そのものに興味がある、などとなっている。

 以上のような問題点(A、E、Fは除外)を踏まえ、「聞いていて疲れない、わかりやすい放送通訳」の条件について考えると、明瞭な発音と発声、適当な速度などの音声表現技術と、漢語の同音異義語による紛らわしさを避けて和語を用いる、難解な語を使わないなどの言語表現技術が必要であることがわかる。

 しかし放送通訳の最大の困難は「聞きやすさ」と「充分な情報提供」という目的が二律背反する点にある。聞きやすさを追及することで、しばしば一部の情報を切り捨てることを余儀なくされるからである。外国語に訳されることを前提としていないニュース番組などでは、話し方の速度はしばしば非常に速い。それににアフレコで通訳を付けるとなると全ての発言を逐語的に訳していくと、日本語自体のスピードが視聴者の聞きやすいと感じる許容範囲を超えてしまうことは明らかである。聞きやすさを優先すれば、情報の一部を切り捨てて日本語のスピードを落とすしかない。放送通訳では、会議通訳におけるRedundancyが拡大解釈されて用いられている、と見ることもできる。本質に関わりのないものは捨てられる。


第3章 通訳の情報処理プロセス
 今後の研究課題として特に重要なテーマは通訳者の情報処理はどのように行われているのかという問題である。実験的研究に際しては、これまで起点言語及び訳出言語の録音テープ、スクリプトなどが資料として用いられてきた。しかし、通訳者の脳の中で起こっている作業過程は依然としてブラック・ボックスのままである。単純に考えても、同時通訳者は次のようなタスクを同時に処理しているかのように見える。

 発言を聞いて理解する・発言を訳出言語に転換する・訳出言語をしゃべる・自分の訳出をモニターして確認する・時にはメモや講演原稿を見る。

 これらをより詳細に検討し、通訳作業の情報処理要素を分析したものが以下のプロセスである。但し(とりわけ同時通訳の場合には)、この順序で生起していることが通訳者に意識されることはなく、複数の要素が重複して処理されていると思われる。

 1.音を聞く。
 2.音が意味のある単位として認知される。
 3.文法的知識に基づいて、複数の単語からなるセグメントとして認知される。
 4.複数のセグメントからなる文章単位のロジック(小ロジック)を理解する。
 5.すでに提示されているロジック(大ロジック)における位置付けを行う。
 6.これから提示されるであろう大・小ロジックを予測し訳文の位置付けを行う。
 7.文を作る。
 8.元の文と意味のずれがないことを確認する。
 9.訳文をしゃべる。
(「同時通訳と逐次通訳における情報処理」通訳理論研究第7号,新崎1994)
 以上の各作業を逐次通訳と同時通訳のプロセスとして図式化してみたのが、次ページに示したフロー・チャートである。


【通訳情報処理の流れ】

時間 逐次通訳 同時通訳
スタート 
 | 
 ↓ 
 | 
 | 
 | 
 | 
 | 
 ↓ 
 | 
 | 
 | 
 | 
 | 
 ↓ 
 | 
 | 
 | 
 | 
 ↓ 
 | 
 | 
 | 
 | 
 | 
 ↓ 
   
発言開始
音を聞く
 ↓
単語を認知する
 ↓
情報のセグメント
をとらえる
 ↓
小ロジック理解
 ↓
音を聞く
 ↓
単語を認知する
 ↓
情報のセグメント
をとらえる
 ↓
前文との接続
関係を理解する
 ↓
(以上繰り返し
 |
 ↓
発言終了
終了時までの
文章構造把握
 
 
 
 
 
 
メモを取り、
部分の訳出を
  決定する
   |
   |
   |
   |
   |
メモに段落の
 印をつける
   |
必要に応じて
訳出方法を
修正する
   |
   |
   |
   |
全体のまとま
りある訳出
発言開始
 音を聞く
  ↓
 単語を認知する
  ↓
 情報のセグメント
 をとらえる
  ↓
 小ロジック理解
  ↓
 音を聞く
  ↓
 単語を認知する
  ↓
 情報のセグメント
 をとらえる
  ↓
小ロジック理解
  ↓
 大ロジックに
 対する位置付け
  ↓
(以上繰り返し)
 
 
 
 
部分訳出を準備
 ↓
部分訳出を開始
 ↓
文構造を整える
 ↓
一文訳出完了
 ↓訳文モニター
必要なら訳文訂正
 ↓
部分訳出を準備
 ↓
部分訳出を開始
 ↓大ロジック照合
文構造を整える
 ↓
一文訳出完了
 ↓訳文のモニター
必要なら訳文訂正
 ↓
(以上繰り返し)

 通訳の情報処理過程においては、認知−分析−転換−訳出−思考の異なる性質を持った作業が交錯しあいながら進行している。


おわりに


 本論では通訳とはいかなる作業であるかというテーマについて概論的に述べた。
 第3章通訳の情報処理プロセスに関しては、今後より一層の研究が必要であると痛感している。また、本論で触れることのできなかった様々な問題もある。以下に今後の研究課題としていくつかのテーマを提起して本論を終えたい。

 ●法廷通訳における非言語情報の伝達:
すでに急増している外国人犯罪への対処という点から考えても重要であろう。

 ●発信された情報の性質によって、通訳による情報伝達はどのような影響を受けるか:  
「訳し易さ」の程度は情報の性質によって異なっている。コンテキスト依存の度合い・数値情報の多寡・予測可能性と不可能性(論理の飛躍があるか)・発言の速度・ことばの訛りなども通訳作業に影響を与える。


 ●通訳者を取り巻く環境:
ノイズの有無・同時通訳機器の使いやすさ・ブースの位置・逐次通訳における通訳者の席次などハード面の影響もあろうし、発言者・聞き手・通訳者の三者の協力関係などソフト面も通訳の精度を左右する。


 このような研究を通じて、全ての人々が自分のことばで自由闊達に意見を述べることが可能になり、ひいてはよりよい国際理解に貢献できることを信じている。

以上


参考文献・資料
単行本:楊 承淑 (1988)『口譯的原理與方法』大新書局
    劉 敏華 (1993)『逐歩口譯與筆記』輔仁大学出版社
    劉 靖之 (1993)『翻譯工作者手冊』台湾商務印書館
    劉 靖之 (1993)『翻譯新論集』台湾商務印書館
    原 不二子(1994)『通訳という仕事』ジャパンタイムズ
    松本 道弘(1994)『同時通訳の英語』明日香出版社 
    西山 千 (1988)『英語の通訳』サイマル出版会
    西山 千 (1991)『新・誤解と理解』サイマル出版会
    篠田顕子・新崎隆子(1992)『英語は女を変える』はまの出
    米原 万理(1994)『不実な美女か貞淑な醜女か』徳間書店
    古田暁 他(1987)『異文化コミュニケーション』有斐閣
    古田暁 他(1990)『異文化コミュニケーション・キーワード』有斐閣
    本名信行他(1994)『異文化理解とコミュニケーション』三修社
    マジョリー・F・ヴァーガス(1987)『非言語コミュニケーション』新潮社
論文: 鄭 仰平 (1989)「連続傳譯與筆記」(『翻譯新論集』所収)
    楊 承淑 (1992)「中日定型スピーチの逐次通訳について」
             (台湾日本語文研究会論文集3号所収)
    呉 文妃 (1993)「原稿つきと原稿なしの同時通訳の問題点、及びその対策」
             (台湾日本語文研究会論文集4号所収)
   Weber.Wilhelm K.(1986)“Improved Ways of Teaching Consecutive
               Interpretation ” (『翻譯新論集』所収)
    AIIC(1992)“Advice to Students Wishing to become Conference   Interpreter”AIIC
    Gerver.David(1976)“Empirical Studies of simultaneous Interpretation A Review and a Model”
    近藤正臣(1990)「いま、通訳を考える」1〜6
           (『時事英語研究』1990年10〜1991年 3月号所収)
    近藤正臣(1991)「通訳の三者二言語モデル」(『通訳理論研究』第1号)
    近藤正臣(1992)「通訳者に頼るべきでないこと」(『通訳理論研究』第3号)    
    水野 的(1992)「放送通訳の理論的課題」(『通訳理論研究』第2号)
    水野 的(1992)「放送通訳の課題U」(『通訳理論研究』第4号)
    水野 的(1994)「同時通訳動態モデルの展開題T」
            (『通訳理論研究』第7号)
    永田小絵(1994)「日本語から中国語への同時通訳分析」
            (『通訳理論研究』第7号)
    ダニエル・ジル(1992)「日本語における予測可能文末と会議通訳」
            (水野 的翻訳『通訳理論研究』第6号)
    新崎 隆子(1994)「同時通訳と逐次通訳における情報処理」
            (『通訳理論研究』第7号)
資料: 永田小絵 通訳現場録音テープ(秦皇島市投資セミナー・国際金属労連世界大会・文化財建築保存技術シンポジウム)および逐次通訳メモ
                                      以上