『通訳理論研究』18号(2000年2月)

通訳者の言語理解の特徴について

 

東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士課程

永田 小絵

通訳者が逐次通訳をする時には、SLに含まれる情報をどのように処理し、記憶するのだろうか。

通訳訓練の初期段階では、個人差はかなりあるが、数分間におよぶSLの情報を全てTLに再現することはほぼ不可能である。教師からのインストラクションとしては「もっと集中して聞くこと」、「漫然と聞き流していてはいけない」といった注意が与えられる。では、「普段の聞き方とは違う、通訳モードの聞き方」とは、具体的にはどのような「聞き方」を指すのだろうか。本稿では、逐次通訳のノートを材料として通訳者の言語理解と情報処理について考えてみたい。通訳学校の受験者(通訳訓練未経験者)、受講生(能力別三段階)、及び現役通訳者のノートそれぞれの相違を見ることによって通訳能力のうちの言語情報処理能力がどのように形成されるかを明らかにし、さらに今後の通訳訓練における指導方法について検討する。

 

1.一般的な聞き手と通訳者

 一般的な聞き手を、「一方的に言語情報を受信する聞き手」(A)と「話し手と相互に言語情報を交換する聞き手」(B)の二種類にわける。そして、通訳者を「第二の聞き手に言語情報を伝達する役割を担う第一の聞き手」(C)として考える。たとえば、テレビ番組で日本記者が外国の要人にインタビューをし、傍らに通訳者がいて逐次通訳を行っている場面があったとすると、各家庭の視聴者は(A)、対談をしている二人は(B)、通訳者が(C)ということになる。

 言語情報を受け取る聞き手A、B、Cの三者に共通する処理作業は、まず、自らの「言語知識」によって連続する音を切り分け、語彙と構造の面から情報内容を理解することである。このとき、聞き手の「世界知識」や「場に対する知識」も同時に援用されることになる。聞き手の持つこれらの知識が、与えられた情報を処理するのに充分であれば、聞き手は発言を完全に理解したと感じることができる。話し手と聞き手の知識の内容にズレがあれば、当然のことながら誤解や理解困難の可能性も生じる。

 聞き手Aの場合は、原発言に対する反応を返す必要性がないので、発言を実際に聞いて理解したかどうかすら特に問題にならない。

 聞き手Bの場合は、話し手に直接反応を返す必要性があるので、発言に盛り込まれた情報を処理する一方で、発言の機会が自分に回ってきたときの戦略を立てておかなければならない。そのために聞き手Bは相手の話を聴取すると同時に、以下のような準備をしなければならない。

 他にも様々な戦略はあげられると思うが、だいたいにおいて上記のような内容であろう。

 さて、聞き手C(通訳者)は、話し手に対して反応を返す必要性はないが、第二の聞き手に対してSLの情報を伝達する必要性があるので、聞き手Bとは異なる性質の準備を行うことになる。そこで聞き手Cのワーキング・メモリーでは以下のような作業がSLの聴取と同時に錯綜して進行すると考えられる。

 通訳というタスクを負わない聞き手Bと通訳を行うことが前提となっている聞き手Cの違いは、前者が受信した情報をテーマとして、そこから枝分かれしたレーマを自分の中で作り出すのに対して、後者は伝達された談話そのものを再現することに集中し、(少なくとも表面的には)新たな情報を派生させることはないし、そのような反応を期待されないところにある。

 

2.通訳力レベルと訳出方向による逐次通訳ノートの比較 

 それでは、SLの談話を忠実に再現するというタスクを持っている通訳者は、どのようにして談話全体を把握していくのだろうか。これを検討するために逐次通訳のノートを分析する方法を採りたい。なぜなら、逐次ノートは通訳者が情報を受信しながらほぼ同時的に書き記すものであるため、通訳者の談話内容の把握および情報整理過程を表していると考えられるからである。

 

母語聴取による逐次通訳ノートの分析(資料:ISS通訳研修センター期末試験)

 それぞれのノートを比較すると、通訳力レベルが高くなるほど下記の傾向が強くなる。

  1. 書き記す文字の量が減る。
  2. ノートの配置に意味を持たせる。
  3. 矢印や記号の出現度合いが増える。
  4. 情報の把握と整理が聴取終了とほぼ同時に完了している。

 以上は全て母語の聴取によるものであるため、この違いは通訳力の差にあることが明らかである。ここではSLの理解に焦点を当てており、また上級クラスになるほどB言語の能力が高いので、TLの質についての比較は行っていない。レベルDからAへ見ていくと、実際に逐次通訳訓練をする段階となるレベルBから談話全体の組立を意識するようになり、レベルAではさらに通訳というタスクを目標とした訓練を通じてノートの配置を活用するようになっていることがわかる。

 

 次に、外国語聴取による逐次通訳ノートの例(資料:茅ヶ崎英語会)をあげた。SLはやや遅めの速度で読まれた英語ニュース、TLは日本語、被験者二名はいずれも日本語母語話者である。

 やはり同様の傾向が見られ、Aのノートは上記の四項目の特徴を有している。また、この例では訳出されたTLの完成度はAのほうが上であった。当然、SLに難度の高い語彙や構造が使われている場合は(B)の英語力がより高いので、SLの情報把握とTLの精確度の面では(A)の訳出は(B)に劣る。ここでは比較のために、どちらも全てを聞き取れた例をあげている。

SL:コンピューターの2000年問題がおこるという西暦2000年まで、あと一年、正確に言えば、あと十一ヶ月になりました。

 この問題は、プログラムの計算回路のなかで、西暦を表す数字を、1999年を99というように、下二桁で表していることによって引き起こされます。

 すると、どういう問題が起こるかというと、2000年になると下二桁が00になるため、コンピューターは、それが1900年なのか2000年なのか区別がつかないということになって、誤作動を起こしたり、極端な場合にはシステムそのものが停止する可能性があるということが予想されます。

 北半球の場合には、2000年問題が発生する一月一日の午前零時は厳寒期にあた

ります。ですからこのとき、電力の供給停止やガスの供給が停止するなどの問題が起こり、人間の生命にかかわる心配があります。

 2000年問題は危機管理上の重大な問題として懸念されているのです。

例1  レベルD(入門科): 語学力強化クラス

被験者(1)

  コンピュータの せ 2000 おこるまで 1年 せいかく11ヶ月

  せ 2000 問だい とはプログラム 計算 回路

せいれき1999 下2ケタとったため おこる問題です

          / \ 

          だけ

問 

 2000 になると 00 になる

コン 1900 or 2000  くべつできない

    00

  ごさどう

きょくたん システムそのもの ていし

で、北半   問 はっせいする

 げんかんき   2000 1/1 午前0:00

   このとき、 

      例  電  ていし  ガス  ていし

 

じたいに

        にんげん

     せいめい かかわる

 ききかんり上 重大

被験者(2)

 

         \おこる/

コンピュータ  西 2000 まで  1年

          11ヶ月 ほど

 とは.プログラム  計算 回路の中にある

                2000

                1999

                  下二ケタ だけを とったために

                         おこる

2000年 になると 「00」になる      電月

     19002000     誤作動  or システム 予想

         /かわからない          可能

    発生

北半球    00  1.1     厳寒期

           0時は 

          電気、水道、 せいめいに

                          危機管王

 

 

 

 SLの形式が直接反映されている部分が見られる。

 また書き落とした情報をあとから追加(ノートの\ /の部分)したりする傾向がある。

 被験者1と被験者2を比較すると、被験者2のほうが情報を階層化して捉えている。情報整理能力は語学力レベルとは別に存在し、それが「通訳者としての素質」と関わるのではないかと思われる例である。

例2 レベルC(準備科):通訳訓練開始準備段階

被験者(3)

 

 

コン あと1年 → 

       2000 10ヶ月

     プロ.   西レキ 下2ケタとったから×

     けいさんかいろ   1999というように

    ――――――――――――――――――――――

  2000

問是 00  1900? 2000

  ごさどう  システム 停止

北半球 2000 1/1 000 さむいとき 電停 ガス×

生命〜〜 きけんにはってんの可のうせい

被験者(4)

 

 

  \あと1年/せいか

コンピュータ 西 2000年問     11ヶ月

           \            入ってる

         コン プログ 計さん回ろ   せいれき 1999

                             という

西れき                           よう

  下2ケタ とっただけで おこるもんだいです。

 

 

 問題

  2000年になると  00 になる。

  コンピ 19002000 区別できない

           コンピ システム

 ごさどう   きょくたん 停止する可能 よそう

       この問だ

 北半球の場  2000 1/1 午前 000

 厳かん期。 ですからこのとき

        例えば Eていし ガスきょうきゅうとまる

       ききかんり上 重大な問題

    人間生命かかわ        けねん

 このクラスは短文訳出が主で、まとまった談話を逐次通訳するまでにはいっていない。

 ノートを見ると、「1999というように」、「下2ケタ とっただけで おこるもんだいです」、「ですからこのとき」、「ききかんり上 重大な問題」等のSLがナマの形でノートに現れている。

 平仮名の多用は、1) とにかく早く書きたい(「きょくたん」、「きき」、「けねん」など画数の多い漢字にあてているもの)、2) 聞こえてきた音声を意味処理している余裕がない(「というように」、「ですからこのとき」など特に情報量が多くないのに全てそのまま書き取っているもの)、の二通りある。

例3  レベルB(基礎科):通訳訓練(逐次通訳)

 

被験者(5)

1y               問:

コンピー 2000  11ヶ月 //  プログラム   1999  おこる//

のみ      回ろ     →  問だ

けいさん

――――――――――――――――――――――――――――

問:2000 → 00 コンピ  1900? // → ごさどう // きょくたん//

2000?      システム止

2000 1/1 0 // ex 停電、ガス → 生命

寒      担心        ききかんり //

重大もんだい

被験者(6)

 

 

コン

2000Q おこるまで

あと1y

せいかく 11

Qは

プロ

or

けーさんかいろの

西れきの

下2ケ だけとたため

Qは

2000なると

00になる

すると

1900

2000

区別×

ごさどー

 

システム そのもの

てーし

かのー性

 Q発生する

       2000 1/1 

        AM0.0

  げんかんき

 ex 電 とまる

    ガス とまる etc

   人間の生命

     にかかわる

 

 ききかんり上 重要Q

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 被験者(5)は、「//」で連続する音声を切り分けて情報の単位を把握し、さらにSLを二段落に区切るために水平線を引いた。だが、この例ではまだ情報単位どうしの結びつきや談話の構成を意識したノートにはなっていない。

 被験者(6)は、メモ用紙を立て半分に区切り、第一段落と第二段落を左右に分けている。さらに、「問題」をすべて「Q」としたり、「y」(年)「m」(月)などの略語を使い、北半球を図で示すなどの特徴が現れている。

 また、このほかにCレベルまでと異なる点は、前にもどって語を付け加えていないことである。情報の単位ごとに

確実に捉えていることを示唆している。

例4 レベルA(本 科):会議通訳クラス

被験者(7)

Com 2000 あと   正

       1年 → 11ヶ月程

   ↓ 

  プログ  計算かいろ

     西 1999年の下2ケタ → 原因

           のみとった

 

問 2000年  00に

  00 → 19・・?

       20・・?  → ごさどー

                 ↓ 極たん

                Stop 可の性

 

   北半球 201.1 000 厳寒期

         電 ガス Stop → 生命かかわる

                      ↓

                   危 かんり上

                   重大もんだい

                      発生?

                      心配 

被験者(8)

 

@   西     1年

  コ 2000年    /11ヶ月

                    

       プロ/計 回路   西暦 1999

                      00

                       ↑

                       問

A 問 ―― 2000年 

             00

             

          コ 1920  区×

                ・ごさどう

                ・sys停止  かのうせい

     北  2000

     半   1/1 AM0時 ―― 厳寒期

     球              電/ガ  供×

                          |

                         人生命

                          ↓

                         キキ管理

                        重大問 発

 

 このクラスではノートテイキングの授業を二回行っているため(一回目は理論、二回目は実習)、

1) 左上から右下へ、2) 情報は縦に階層化、3) 矢印や記号、略語の活用、などの基本的な方法が

忠実に実行されたノートになった。ノートの配置によって、情報単位どうしの関係を示そうとする

意識を伺い知ることができる。

例5 英語→日本語通訳/外国語から母語への訳出

通訳者のノートの例

  1. Japan's imports of
  2. clothing,
  3. from haute couture to
  4. low-cost ready-to-were items
  5. are expected to decline this year,
  6. for the first time in seven years.

  1. According to the Japan Textile Importers' Association, 
  2. low-priced clothes from China,
  3. which account for 70 percent of imports, are on the decline

.

 

  1. It says
  2. increasing labor and production costs,
  3. in addition to the yen's depreciation,
  4. have made imports from China less competitive.

  1. Italian fashions,
  2. for which customers once crowded designer shops,
  3. are also likely
  4. to suffer from slow demand.

 

  1. Textile importers say
  2. apparel shops continue to cut orders
  3. in reaction to tight consumer spending
  4. following the hike in the consumption tax in April.

 

訳出結果:

日本の衣料品輸入は、高級衣料品から低価格の既製品まで、今年は減少する見込みです。これはこの七年間ではじめてのことです。日本繊維輸入協会によると、輸入の七割を占めている中国からの安い衣料品も減少しています。また、人件費と生産コストの上昇に加えて、円安も進行したため、中国製品の競争力が低下したとしています。イタリアのデザイナーズショップはかつて非常に盛況であったが、需要の落ち込みによって、商いが低調になっています。繊維輸入協会はまた、衣料品取り扱い店は四月の消費税引き上げに伴う需要不振のため、引き続き注文をカットすると述べています。

 

例6 英検一級 通訳訓練未経験者のノートの例

  import   clo

    low

        7

       によると A 

日本センイ協会.    decline

安い. China (70%  

          ^account for

it sads           A

  labor,prodction,       

    china     @   

   less competition    

               

     ファッション      

イタリア   D.C.shop

                  

likely to slow demand

suffer @

       A          

tex importer _/ アパレル店.    

         reaction to 

continu order / A

to cut A           

ハイク  from 4月 消ヒ税 

 

このノートと通訳者のノートを比較すると、最も大きな違いは下記の二点であることがわかる。

 

@:情報処理の深さが足りない。

 SL(オリジナル)の英語が処理されずにそのまま書き留められている。音声を聞いた時点で個々の音のまとまりが意味を持つ単語であることは認識されており、それゆえに「聞いているときには理解できている」。

 だが、音から語への表面的な処理に終始しているため、記憶の活性化が非常に弱く、内容が印象に残らない結果になる。デリバリーするときになって初めてメモを日本語に翻訳しようとする(聞きながら訳出戦略を立てていない)ため、瞬時には「対応する適切な訳語が思い浮かばない」。

 また、時間の制約から、個々の語の関連を示す文法的なマーカーがノートに現れておらず、いざ訳す段になると、バラバラに書き記された語と語の関連性はすでに短期記憶から消失し「何と言っていたか忘れてしまっていた」。

A:動詞を後から付け加えている。

 動詞が後から付け加えられていることが見て取れる。名詞は情報の中心となるので、優先的に注意が払われるが、訳出のことを考えると、動詞がなくては困るということで、後からあわてて書き加えている。

またSample(A)と違って、動詞も全て文字による表記となっているため、時間がかかる。矢印で上昇、下降などを表す以外に記号や略語の使用は非常に少なく、このため、「書くのが間に合わない」結果になる。

 

  

3.通訳における情報整理の方法

 認知言語学で人間の言語情報処理の方法として提起されているものに、「ソーセージ・マシン」モデル(阿部純一、桃内佳雄、金子康朗、李光五共著『人間の言語情報処理』1994)がある。ソーセージ・マシンでは、数語(7±2語程度)をひとまとまりとして、句ごとに包装していく。その後、より大きな句や節にまとめ、文レベルの意味処理を行う。つまり、人間の言語情報処理においては、原文の入力→小さな単位ごとにひとまとめにする→大きな単位に統合して意味処理を行うという方略を取っているとする。 

 認知ファイル(船山仲他 1996「同時通訳における処理単位について」『通訳理論研究』vol.10)は、このソーセージ・マシンモデルに近い。これは、通訳者が次々に聞こえてくる情報をどのように処理しているかを検討して仮定されたもので、船山論文では同時通訳における意味処理が以下に引用する「多層流れ図」として提案されている。

               図 1  多層流れ図      

                                

 この図で12と数字のついた断片は通訳者が聴取してひとまとめにくくった情報の単位を表している。 船山論文では認知ファイルを同時通訳との関連で述べているため、原発言から認知ファイルの間、あるいは認知ファイルから訳文までの間にTLへの変換が行われなければならない。上記の図だけでは、どの時点でSLの概念がTLに変換されるかは明確ではない。

 逐次通訳においても、聴取した言語の理解はオンラインで行われているはずである(まとまった一段落を全て記憶してあとから意味処理と転換を行うことは記憶容量から見て不可能)。当然、一つ一つの音素に情報を見いだすことは出来ない。そこで、ひとまとまりごとに処理を行っていると考えるのが妥当だ。この処理過程の反映が逐次通訳のノートだとすれば、通訳者の行っている認知と意味処理のプロセスはノートから観察することが可能である。と、同時に「認知ファイル」が目に見える形となって現れているのが逐次通訳のノートだと言うこともできよう。但し、逐次通訳のノートから言えば、「認知ファイル」というよりも「認知カード」というメタファーを使ったほうがわかりやすい。ノートに記された言語の種類(SLかTLか)によって、通訳者がどの時点でTLへの変換処理を行っているのかも観察できるだろう。

 このような観点から通訳ノートをみると、例3 被験者5のノートの例はソーセージ・マシン的な理解の方略を採っていることが明らかである。ここでは、//(ダブルスラッシュ)によって、それぞれの意味の切れ目(情報単位)が切り分けられている。また、これはサイト・トランスレーションにおけるスラッシュ・リーディングにも共通点を見いだすことができる。 

図 2  ソーセージ・マシン的ノート 被験者5の例

  

 例4 および例5 では、各訳出単位ごとに認知カードを作成し、意味階層によって配置するノートの形式を見ることができる。

図 3  認知カード的通訳ノート 被験者(7)の例

 

 

  以上の各カードは、それぞれが一文を構成しうるところから、同時通訳の訳出単位とすることもできる。

4.通訳訓練における聞き方(SL理解の方略)指導

 通訳力を向上させようとする場合、外国語の能力を伸ばすことによって解決できる部分と、そうでない部分がある。よい逐次通訳を行うためには、以下の能力が必要である。

  1. SLの談話に含まれる内容を正しく理解できること
  2. TLで適切に表現できること
  3. 談話に含まれる命題と全体の構成を把握し、再現するまで保持できること

1) と2) は外国語教育の中で解決できる。しかし、3) は外国語教育では特に指導されない。つまり、通訳教育の中で、外国語能力の向上とは異なる、純粋な「通訳力」というものを向上させようとするなら、3) に注目して、そこを強化してやることが必要になってくるはずである。

 SLを聴取し理解するのに必要な語学力をすでに習得している場合でも、通訳訓練を受けたことのない人、通訳の経験が浅い人は例6に見られるように、「聞いている時は全部わかっていた」つもりでも、いざ訳そうとするとTLとしてまとまりのないものになってしまうことが多い。それは3)の能力が不足していることと、通訳というタスクを与えられた時に以下のような無用な緊張を感じるためなのではなかろうか。

 言語は線状に流れてくるので、そのまま書きとめようとすると、出てきた順番に横へズラズラ書いてしまいがちである(通訳訓練未経験者、初心者の例を参照)。

 そこで、情報を適切に切り分け、単位ごとのまとまりで意味をとっていく習慣を身につけさせることで逐次通訳の能力が向上すると考えられる。情報単位の切り分け(一単位に含まれるコンテンツ)は何を標準とするかに関しては、逐次通訳のノートの例から意味論的に分析すると、一つの命題を構成することのできるコンテンツが提示された時点で一つの情報単位として処理していることがわかる。

  1. ソーセージ・マシンのメタファーを使い、文字言語(スラッシュ・リーディング)の練習から開始する。
  2. 音声言語による訓練の第一段階では、情報単位ごとにポーズを入れて聴かせ、意味をとらせる。
  3. カードのメタファーを使って、わかりやすく配置する練習を行う。

 

以上

参考文献

船山仲他 1996「同時通訳における処理単位について」『通訳理論研究』vol.10

劉敏華『逐歩口訳與筆記−理論,実践與教学』輔仁大学出版社1993

阿部純一、桃内佳雄、金子康朗、李光五共著『人間の言語情報処理』サイエンス社1994

R.L.クラッキー『記憶のしくみ1、2』箱田裕司、中澤幸夫共訳 サイエンス社1979

ロフタス『人間の記憶−認知心理学入門』大村彰道訳 東京大学出版会1980

大津由紀夫編『認知心理学3言語』東京大学出版会1995

橋田浩一、安西祐一郎、波多野誼余夫、田中啓治、郡司隆男、中島秀之『認知科学の基礎』岩波書店1995

佐伯胖 認知科学選書4『理解とは何か』東京大学出版会1985