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ある方からのメールがきっかけで、よりよいコミュニケーションのための通訳者の使い方について考えてみました。 各項目の内容は、株式会社アイ・エス・エスの「通訳者を上手に使うためのハンドブック」と、『通訳理論研究』ジャーナル第3号「発言者のためのガイドライン」を参考にしました。
通訳者を雇用する方々に見ていただきたいと思って書いたものですが、このページを見た通訳者がプリントして使用者やエージェントに手渡すこともできます。
でも、こういう内容を個々の通訳者がご自身の意見という形で提出するとどうしても角が立ちますね。通訳に関するインターネットのサイトからコピーしたと言っていただくと多少は話がしやすいかもしれません。内容についてクレームや反論などがあった場合は、このページの作者に責任をかぶせてくださって結構です。ただしこれは全文をそのままコピーした場合に限ります。一部分だけを切り取っての使用は個人の責任の範囲内で行ってください。
使用者側はなにぶんにも通訳者の使い方をあまり知らないし、我々の都合などは考えてくれないので、黙っていたら資料も提供しないし、理不尽な使われ方をされがちです。しっかりしたエージェントが間に入らないボランティア通訳などは特にその傾向があるようです。またエージェントの方々にも通訳の現場の状況をよく知っていただいて、クライアントを指導していただきたいと思っています。
ここに列挙した通訳者からの要望は我々通訳者が楽をするためのものではありません。あくまでも良い仕事をする(すなわちより良いコミュニケーションを実現する)ためのものであることを忘れないでください。クライアントが極めて協力的であると、ときには我々の事前準備の仕事を増やすことにもなるのです。これだけの要求をしたら半端な仕事はできないことを通訳者自身も肝に銘じておいてください。
通訳者の取り扱い説明書
よりよい国際コミュニケーションのために
通訳者を介した国際コミュニケーションを成功させるために必要な条件は何でしょうか。
通訳者からよく聞かれる不満は、会議資料や発言原稿を提供せず、打ち合わせもない、休み時間や食事時間をろくに与えない、仕事とプライベートの区別がない、通訳以外の仕事をさせる、翻訳不可能な駄洒落の連発、等々です。通訳者を使う側の方々は、このような通訳者の不満や、使用者に期待したいことなどについて、あまりご存じではないように思います。
通訳者を上手に使ってよりよいコミュニケーションを実現するためには、クライアント、エージェント、話し手、聞き手、通訳者みんなが、ともに協力して仕事をすることが大切です。私たち通訳者は発言を精確に伝達し、スムーズな異言語間コミュニケーションを達成するために最大限の努力を払います。しかしそれは、皆さんの協力が得られるかどうかにも深くかかわってくるのです。以下は、私たち通訳者を使う立場の方々に向けた通訳者からのお願いです。
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1.通訳の場に関する基本情報を提供してください
- 話し合いに出席する方々の正式な所属先、肩書き、氏名(漢字と読み方)を明記した名簿。
日本側と外国側の両方必要です。
- 以前に同様の話し合いが行われたことがある場合は、その時の議事録および出席者名簿。
人名が急に出てきた時、どのポジションにいる方かわからないと対応できないことがあります。
- 話し合いの目的(商談、意見交換、見学、紹介、レクチャー、講演、接待、求償、などなど)
- 相手側との関係(現在の取引先、技術提携を予定している相手、姉妹校、売り込み先、などなど)
- 訪問場所の住所(簡単な地図を添付)、電話番号、担当者の氏名や連絡先など。
当日の詳細なスケジュール。
2.通訳の内容に関する資料を提供してください
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3.なるべく打ち合わせの時間を設けてください
- 司会者や講師など関係者との打ち合わせが行われれば通訳の完成度も大きく向上します。
- 通訳者が発言者に対して事前に提供された資料に関する質問をする時間を作ってください。
- 強調したい点や通訳者に注意して欲しいことがあれば遠慮なく注文を出してください。
- 聞き手の属する国や地域に関する文化や習慣、タブーなどに関するご質問があれば、通訳者がお受けすることができます。
4.労働条件についてご理解ください
- 通訳者の拘束時間は原則として半日(午前または午後の4時間以内)あるいは一日(実働7時間以内)としてご依頼ください。ただし、30分〜1時間ほど通訳者を雇用したいような場合は別途ご相談に応じます。
- 逐次通訳を一名体制で行う場合は、2時間に15分間の休憩をとらせてください(1時間45分連続で通訳したら15分間の休憩ということです)。二名体制の逐次通訳の場合、休憩の必要はありません。
- ボランティア通訳者は業務にあまり慣れていないことが多く、緊張と不安を感じています。ボランティアなら経費の問題もありませんから、ぜひ通訳者二名体制で仕事をさせてあげてください。互いに助け合うことで通訳の質も向上しますし、使用者も休憩時間を気にする必要がありません。
- 昼食時間は原則として1時間の休憩となりますので通訳者は仕事は行いません。食事は、近所にレストランなどがあれば特にご用意いただかなくても結構です。昼食時の懇談を通訳する必要がある場合は第7項を参照してください。
- 通訳者が朝から一日勤務の場合、夕食会、パーティーなどはできれば別の通訳者を雇ってください。これは通訳の品質を保つためにも大事なことです。
- 数日間にわたって随行する場合、その間の翻訳業務などは随行通訳者に依頼せず、通訳者に充分な睡眠をとらせるようご配慮願います。
- 工場研修などで長期間にわたって生活をともにする場合にも勤務時間は厳守してください。通訳業務を伴う時間外勤務は全て超過勤務料金をいただくことになります。
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5.発言は以下の要領でお願いします
- 発言は正しい日本語で明確にお願いします。言いたいことがよくわかる話し方がコミュニケーションに最も効果的です。そのためにレジュメやメモを作っておくとよいでしょう。
- メモ、レジュメ、発言原稿は必ず通訳者に提供してください。原稿の返却を希望されるかたはお申し出ください。
- 発言原稿はあってもなくても構いません。原稿を読まれることにも反対はしません。しかしながら、聞き手は翻訳された原稿を持っているわけではありませんので、なるべく自然な語り口になるようにお願いします。
- 物語性のある上品なジョークはコミュニケーションによい影響を与えますので、通訳者も歓迎しますが、かけことば、駄洒落など、翻訳不可能な発言をしても、訳せなかったり、無理に訳しても伝わらないことがほとんどです。また品のないジョークは訳しにくいばかりでなく、発言者本人の人間性を貶めることにもつながります。通訳者を困らせようという意図でもないかぎり、駄洒落や下ネタ的なジョークはお控えください。
- 発言の速度はあまり早口にならないようにご注意ください。特に同時通訳で原稿をお読みになる場合は、適当にポーズを入れながら少しゆっくりめに読んでくださると内容を完全に聞き手に伝えることが可能になります。A4版(40字×30行)の日本語原稿1枚を5分間程度でお話ください。
- 逐次通訳はだいたい二、三分間程度で区切ってください。もっと短くても、あるいはもっと長くても構いませんが、あまり短いと通訳者に何が言いたいのか伝わりませんし、あまり長いと日本語の分からない聞き手が退屈してしまいます。
- 逐次通訳の場合、発言の途中で通訳者から質問がくることがあります。これは聞き手に内容を正確に伝えるための質問ですので、わかりやすく解説してください。「言ったとおりに訳せば良い」と言われても、通訳者が理解していなければ発言の内容は正しく伝わらないものです。
- OHPやプレゼンテーションソフト利用で会場を暗くする場合、暗闇のなかで逐次通訳をさせられることがありますが、たいへんやりにくいものです。通訳者に小さなハンド・ライトを用意してくださると助かります。
- 聞き手の所属する国や地域に関して、事前に簡単に調べておかれるとよろしいかと思います。特に歴史的にふれてはならないことや、我が国との関係などをご理解いただいていると、聞き手とのコミュニケーションがより効果的に進められます。
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6.途中でさえぎらないでください
- 通訳者は発言を聞いたり訳出したりしている時は非常に集中しています。逐次通訳の途中で割り込んで発言されたり、質問されたりしますとその後の通訳に影響を及ぼしますので、何か疑問点や確認したいことなどがありましたら、その部分の通訳が終了してからにしてください。
- 昼食会などの通訳の時には、ウェイターに通訳の最中に「皿を下げてもよいか」「コーヒーか紅茶か」等々と話しかけられて閉口することがしばしばあります。主催者の方から事前にウェイターに一言注意しておいてくださると非常に助かります。通訳者自身がウェイターに話す機会を見つけるのはなかなか難しいものですから。
7.食事時間を確保してください
- 昼食会、夕食会などの通訳を一日拘束の通訳者に依頼する場合は、食事の前の適当な時間に30分程度の休憩時間を設けて簡単な食事をさせてくださると有り難く思います。口にものが入っていては通訳もできませんし、参加者も通訳者の空腹を気にしながらの懇談では思うようにお話し合いができないことでしょう。事前に軽食でも出してくだされば通訳者は食事に気をとられずに充分な通訳ができます。
- 経費の問題などで難しいかもしれませんが、食事休憩をどうしても確保できない場合は通訳者を二名雇用していただければ助かります。
8.通訳者の守秘義務は絶対です
- 通訳者にとって守秘義務は絶対です。仕事を通じて知り得た秘密を公開することは決してありませんが、特に確実に守秘義務を守らせたいと思うことがありましたら、事前にお知らせください。またご提供いただいた資料や書類の返却を希望なさる場合もその旨お伝えください。さらに、ご心配であれば逐次通訳で取ったノート(メモ)なども業務終了後に提出させるとより安心できるかと思います。
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9.その他
- 会社や施設の紹介ビデオは原則として通訳の対象になりません。
是非とも通訳が必要である場合は、ビデオのシナリオを用意し、別料金で翻訳を依頼するようにお願いします。ビデオの画面にあわせて翻訳原稿を読み上げる方式であれば通訳者が朗読を引き受けます。
- 通訳者は会議の議事録作成などは行いません。
- エージェントを通して雇用した通訳者に、次回から直接仕事を依頼したいと申し出るクライアントが多くありますが、正社員として雇用するのでもないかぎり、こうした提案はご遠慮ください。
- 接待や二次会に同行した女性通訳者がしばしばセクハラ被害にあっています。カラオケのデュエット強要、プライベートな事柄をしつこく質問するなどはすべて通訳業務とは無関係です。通訳者は職業人として尊重されることを望んでおります。ご理解を賜りたく存じます。
以上