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 通訳者のイメージ・アンケート調査結果

(1995年7月『通訳理論研究』9号に掲載したものを要約しました。)

                                  永田 小絵

【調査対象】ISS通訳研修センター受講生(有効回答件数合計207件)
      内訳:日中通訳コース 入門科・準備科 25名
                 基礎科     18名
                 本科       9名
                 夏期集中講座  12名
         日英通訳コース 基礎科T    33名
                 基礎科U    27名
                 通訳科T    32名
                 通訳科U     9名
                 同時通訳科    5名
         スペイン語通訳コース      14名

【調査期間】1994年7月〜10月

【調査方法】選択肢回答型のアンケート調査

【調査内容】1.通訳者に対してどんなイメージを抱いているか。
      2.通訳者が自らの業務として実行すべきである事柄は何か。
      3.通訳者として望ましい性格はどのようであるか。
      4.将来通訳者になりたいか、なりたくないか。
      5.なりたいとすれば、どのような業務形態を希望するか。
      6.なりたくないとすれば、その理由は何か。
      7.これまでの通訳訓練のうちで役に立ったと思う内容は何か。

【調査結果】

1.通訳者に対してどんなイメージを抱いているか。

問:あなたが考える通訳者のイメージに最も近いものをひとつだけ選んでください。

  選択肢                     回答人数
専門技術を持つ職人、特殊技能を提供する職業人     59人  
異文化間コミュニケーター、文化の架け橋        43人   
黒子、縁の下の力持ち                 38人    
情報の媒介者、ッセンジャー              28人  
日本と外国の間を取り持つコーディネーター、民間外交官 21人  
語学の達人、留学経験者、バイリンガル         13人 
非常に精巧な音声翻訳機                 4人
その他、わからない                   1人

 上位3番めまでをまとめると「専門の技術を持った職業人であり、異文化を結びつけるかけ橋たることを使命とする黒子あるいは空気のような存在」であるということになる。
 しかし、最も支持率の高い「専門技術職」でも3割を切っており、「異文化のかけ橋」と「黒子・空気」がそれぞれ約2割で、この3者の占める割合の合計が7割程度と、かなりばらつきが見られる結果となった。最も支持率が低いものは(「わからない」と回答した1名を除くと)、「音声翻訳機」であって、通訳という作業は機械的な言語変換であるとの認識はほとんど見られないが、第1位の「専門技術職」と最下位の「音声翻訳機」にまるで共通点がないとも言えないような気がする。
 ちなみに、通訳訓練を受けたことがない人を対象とした体験コースの日中夏期集中講座では「専門技術職」を選択した人はなく、「語学の達人…」を選んだのはこの層に集中する。

2.通訳者が自らの業務として実行すべきである事柄は何か。

問:通訳者が自らの仕事として行うべきだと思うものに○をつけてください。
 (複数回答可)
選択肢                         回答人数 
仕事の準備のため図書館などで勉強する          184人
会議で突然放映されたVTRを即座に通訳する       166人
講演者に電話をかけて発言内容の不明点を質問する     159人
発言者に講演原稿を要求する               141人
日本の文化や習慣を外国人に紹介する           138人
曖昧な言葉を自分なりに解釈しわかりやすく伝える      80人
宴会では食事をとらずに通訳をし続ける           73人
一日6時間以上通訳をした後パーティー通訳も引き受ける   70人
外国人の食事や買い物の世話をする             53人
議事録をとって会議主催者に提出する            21人

 「仕事の準備」という範疇に入る項目(図書館で勉強、講演者に不明点を確認、原稿提供の依頼)はどれも高い支持率を得ている。
 しかし、ここで注目したいのは「突然使うことになったVTRを即座に訳す」を8割が選択していることである。この項目は言語別に顕著な差があり、日中コースでは支持率が低い(50〜60%)が、日英および日西コースでは(日英同通科の約6割を除き)90%以上の受講生が「そうするべきである」と答えている。クラスの中でそのような指導がされているのかどうかは不明であるが、予定にない、しかも自然な話し言葉よりも密度が高くなりがちなビデオの通訳をしなくてはならないという考え方は意外であった。
 支持率最下位は「議事録をとって主催者に提出する」の10%であった。これは当然の結果であるとしても、下から2番めの「外国人の食事や買い物の世話」もまた通訳者の仕事であるとする回答が26%もあったことは一考に値する。これは通訳者としての最初の業務が往々にしてガイド・随行など生活面でのケアを要求されることと無関係ではあるまい。また、「日本の文化や習慣を外国人に紹介する」項目も約7割と高い支持率を得ていることと考え合わせても、通訳という業務に「他人の世話」という要素を見いだしている傾向が表れていると思う。

3.通訳者として望ましい性格はどのようであるか。

問:通訳者の適性として望ましいと思うものに○をつけてください。(複数回答可)

選択肢      回答人数 百分率
努力型の        169  81
礼儀正しい       160  77
外向的         154  74
実践的         144  69
社交的         129  62
協調的         128  61
学究的         120  57
理論的         118  57
発想が豊か       109  52
能動的         101  48
真面目な        101  48
独立心のある      96  46
規律正しい       92  44
慎重な         85  41
直感的         82  39
ユーモラスな      81  39
職人的な        77  37
平和的         70  33
創造的         66  31
地味な         37  17
従順な         33  15
受動的         17   8
内省的         16   7
華やかな        11   5
豪快な         11   5
懐疑的          7   3
攻撃的          6   2
頑固な          6   2
天才型の         6   2
独断的          4   1
感情的          4   1
批判的          4   1
内向的          1   0
気が弱い         0   0
その他          7   3
その他の記入内容:
声が良いこと、人間が好きなこと、思いやりがあること、冷静沈着、容姿がよいこと、サービス精神旺盛、謙虚、含羞、臨機応変、真摯

 通訳者の適性として選択された項目のうち、4割以上から支持されたものをまとめると次のような人間像が浮かんでくる。
「理想的な通訳者であるA氏は、明るく社交的な性格で、誰とでも上手に交際し如才ない印象を与えます。しかし、実は大変な努力家で、コツコツと勉強することを怠らず、しかも明晰な頭脳をもち、それを実践にいかすことができる人です。彼はまた、几帳面で真面目で、おまけに独立心に富んでいます」。
 逆に最低の通訳者はこうである。
「B氏はおよそ通訳者に向いていない性格です。彼は気が弱く内気で、しかも疑い深く、
感情的に他人の批判をすることが大好きです。天才的なところもありますが、独断でもの
を言うクセがあり、どうしようもなく頑固なのです」。
 これは通訳者をめざして訓練を受けている人たちを対象としているので、かなり理想化した結果になっている。実際にプロ通訳者が全てA氏のようであるというわけではないし、逆に非常に優秀な通訳者であってB氏に近い人もいる(かもしれない)。

4.将来通訳者になりたいか、なりたくないか。
5.なりたいとすれば、どのような業務形態を希望するか。

問:あなたは通訳者になりたいと思いますか。
 なりたい         180人  87% 
 なりたくない        19      9 
 わからない・無回答      8      4 
 合計           207人 100%
 
[参考]通訳者を志望する理由
日中夏期講座(全くの初心者)
 ・日本人以外の人も、文化や環境は違っても人間として皆同じだと思ったから。
 ・日中友好に貢献したいから。
 ・勉強したことを生かしたい。勉強することには限りがないから。
 ・今まで中国語に接してきて、現在の職場でも多少なりとも中国語を使用して給料をもらう以上、
  レベルアップをはかり、一流とはいえなくとも通訳と名乗ることのできるくらいの人間になりたい。
日中準備科(アテンド、随行レベル)
 ・情報の媒介者という仕事で役に立ちたい。
 ・発言者の言葉をいかに正確に伝えるか、どのような表現方法があるかを探究したい。
 ・中国側と日本側の意思の疎通のお手伝いがしたい。
 ・人のお世話をするのが好きだから。
日中基礎科(一般通訳クラス)
 ・自分の国について少しでも多くの外国の方に知っていただき、交流の発展に少しでも役に立って
  みたいと思うから。
 ・いろいろな知識が得られるし、自分にとってプラスになる。
 ・これまでに身に付けた中国語と日本語の能力をいかしたい。
 ・通訳者という仕事に憧れている。
 ・好きだから。
日中本科(会議通訳クラス)
 ・言語と文化に興味があるから。
 ・ただ何となくなりたいと思う。特に理由はない。
 ・語学力を発揮して二国間の文化、経済交流に役立ちたい。
 ・通訳業務を通じて話し合いの内容を本当に理解することができ、自分の分野が広がるから。
 ・コミュニケーションができない両者の潤滑油となることは意義がある。
 ・非常に価値の高い仕事である。

問:通訳者になりたい、と答えた方、将来あなたが活躍する場はどこでしょうか。
 一般会議:逐次通訳   50人  28% 
 企業内通訳       44   24 
 国際会議:同時通訳   33   18 
 放送局:二か国語放送  25   14 
 観光ガイド       19    11 
 アテンド・エスコート  17      9 
 見本市などイベント   11      6 
 法廷通訳         8     4 
 政治・外交        4    2 
 その他、わからない   11     6 
その他の記入内容:
ボランティア通訳、自治体の友好交流、訪日代表団の式辞通訳、芸能関係、医療関係、インタビューの通訳、スポーツ関係の通訳

 通訳者を目指している受講生は全体の9割弱である。これをレベル別に見ると、初級の段階では約3割が企業内通訳を希望し、中級になると一般的内容の逐次通訳となり、上級では国際会議の同時通訳が第1位に浮上する、という非常にはっきりとした変化がわかる。
 漠然とした将来の希望を尋ねているにもかかわらず、やはり現在の自分のレベルの一歩先を見ている受講生が多い。クラスで扱う教材の内容も影響しているだろう。通訳の業務内容として、全般的に人気がないのは政治・外交・法律である。これらの分野は、受講生にとっては些か遠い世界であるようだ。
 選択肢以外に記入された業務には、芸能・スポーツ関係や医療関係など通訳内容を絞っているものも散見された。

6.なりたくないとすれば、通訳訓練を受ける理由は何か。

問:通訳者になりたくない、と答えた方に質問します。通訳訓練を受ける理由は何ですか。(回答人数/なりたくないと答えた人数19名)
 仕事で通訳する必要がある。    8/19 
 外国語の学習そのものが好き    7/19 
 外国人と直接話をしたい。     3/19 
 他の語学学校では物足りない    3/19 
 何かを教わることが好き。     2/19 
 その他              5/19 

その他の記入内容:どのように教えるのかを知りたかった、頭を使えば老人性痴呆症になりにくいだろう、言葉ができれば仕事の可能性が広がるから、翻訳者になりたい(2名)

 通訳者養成訓練を受けていながら、通訳者を目指していない受講生は9%、「まだわからない」とする受講生4%をあわせると13%になる。彼らが通訳訓練を受ける理由として最も多いのは「現在の仕事で通訳をする必要がある」というものである。通訳を職業とすることは望まないが、仕事の上で通訳力を要求されているわけである。次に支持率が高かったのは「外国語の学習そのものが好き」という項目で、これは外国語の学習をきわめていくと、最終的には通訳訓練に到達するということだろうか。同じような意味で、「他の語学学校では物足りない」と回答した受講生も9名中3名いた。
 なお「通訳者になりたくない」ほうを選択した受講生の多くが「自分は通訳者になる適性がないから無理です」とコメントを書き加えていたことも注目に値する。つまり通訳養成校に通って訓練を受けているうちに自信をなくしてしまうケースもおおいにある。その結果、通訳訓練を受けながらも、外国語の勉強にもなるし、外国人と会話を楽しむためにも有効だから、とりあえず勉強を続けていようという気持ちに傾いていくことも想像できる。この結果から、日中通訳コースの初級レベルのクラスで、「通訳者になるためにはもっと頑張らなくてはダメ」と言った講師に対し、一部の受講生から「通訳者になるつもりはないのだから、通訳、通訳と強調しないでほしい」と反発された事件を思い出した。通訳養成コースといえども、全員が通訳者を目指しているわけではない。

7.これまでの通訳訓練のうちで役に立ったと思う内容は何か。

問:これまでに受けた通訳訓練で効果があったと思うものは何ですか。(複数回答)
逐次通訳             122人 59%
シャドーイング          104  50
リプロダクション、リテンション   76  37
サイトトランスレーション      38  18
パラフレーズ             9   4
その他                8   4
その他の記入内容:
談話構造の分析、まだ効果があったかどうかわからない、類語の使い分け、短文の暗記、ノート・テイキング練習、教師の経験談、同時通訳(日中本科および日英同通科)

 支持率が最も高いのは「逐次通訳」、次いで「シャドーイング」、第3位が「リプロダクション・リテンション」であった。サイト・トランスレーションは意外に支持されず、18%にとどまった。
 逐次通訳訓練は通訳のプロセスやスキルを理解するうえで最も効果的であり、また自分のパフォーマンスについて講師から訳語の訂正、コメントなどの評価を受けやすいため、支持率が高くなったのであろう。シャドーイング・リプロダクション・リテンションに関してはLL装置を活用して全員が集中的に訓練をおこなうことが可能で、時間を無駄なく使って、十分に訓練した実感を与えるのではないだろうか。上位3項目のレベル別支持率を見ると、初級:1位シャドーイング、2位リプロダクション・リテンション、3位逐次通訳・中級:1位逐次通訳、2位シャドーイング、3位リプロダクション・リテンション・上級:1位逐次通訳、2位リプロダクション・リテンション、3位シャドーイング、となり、レベルがあがるほどシャドーイングの支持率は低下する。
 サイト・トランスレーションがあまり支持されないのは、ひとつには受講生の音声への希求が強いことが理由だ。サイトラについて受講生からしばしば聞かれる意見は、「まずリスニングを強化したい」「文字を見ながら訳すのでは通訳ではない」「原稿があれば訳せて当然」などである。講師から見れば、原稿を見ていてもまともに訳せないのに、とも思うし、実際に会議通訳をするとサイトラの必要性がわかるのだが、受講生は一語一語を追いながら外国語へ転換する地味な作業をあまり好まないようである。またサイトラに人気がないもうひとうの理由として考えられるものは、一瞬のうちに消えてしまう音声とは異なり、現にそこにある文字に縛られるため、受講生の側からすればなめらかに訳すことが困難で、講師からも一語一語の訳しかたについて厳格に評価されがちであることが考えられる。
 サイトラをクラスでどのように取り入れていくか、という指導方法の問題もある。サイトラの指導をしていて特に気になることは、原稿があると逐次通訳にせよ同時通訳にせよリスニングが疎かになってしまうことである。特に一週間ほど前に原稿を配布されている場合、極端な例では全てを翻訳してきて読み上げる受講生もいる。ではサイトラは不必要かと言えば、前述のとおり実際の通訳現場には原稿を読み上げるタイプの発言者がかなり多いのでもあるし、やはりある程度は行う必要があるだろう。例えば、事前配布をせず、その場で先に読んで聞かせ、読み終えた時点で原稿を渡すといった方法、あるいはベタ原稿ではなくレジュメだけを渡しておく、または同通のサイトラでは読み上げる際に原稿の一部を省略したり、段落構成を変化させたり、などの工夫を行うことで緊張感を保つことも可能かと思われる。
 参考までに付け加えれば、日中通訳の訓練ではサイトラにはもうひとつの重要な役割がある。即ち、サイトラは漢字語の束縛から自由になる訓練でもある。同じ漢字を用いていても微妙に意味合いの異なる「同形異義語」(cf. 工場を「参観する」:中→「見学/視察する」:日など)あるいは本来の日本語/中国語には存在しないにもかかわらず、つい通じるような気がしてそのまま使ってしまう語彙(cf. 「生命共同体」:中→「運命共同体」:日など)が非常に多く、これは音声だけで意味を捉えていけば干渉を受けにくいのだが、文字を見てしまうと途端に訳せなくなる傾向がある。日中両国語の漢字語は通訳者を束縛する強力な枷である。

【終わりに】
 このアンケート調査は、まず「通訳者とは何か」という根本的な疑問から出発したもので、それを発見するひとつの糸口として通訳養成校に通う受講生の意識を調べるために行われたものである。通訳者とはいかなる存在であるかというイメージについては、やはり突出した支持率を示した項目はなかった。

 通訳者に望ましい適性、ということについて報告者は漠然とではあるが、ある種の二重性を想定していた。それは「大雑把だが几帳面」、「努力型ではあるが天才的なひらめきもある」、「分析的だが直感的」等などである。支持率の比較的高いものから拾い出すと確かに「実践的・理論的」、「協調的・独立心のある」などが見られるが、二重人格的な性格を色濃く表した結果とはならなかった。

 さて、アンケート調査が報告者の疑問に答えてくれたかどうかは別にしても、受講生の全体像は、ぼんやりとではあるが浮かび上がってきたように思える。
 当然のことながら207名の受講生をひとくくりにしてステレオタイプ化することには無理があり、言語別・レベル別などの切り口を設定することが必要であろう。
 しかし、それでも今後の通訳訓練のあり方について多少なりとも示唆を与えてくれたものであると信じたい。最後に、アンケート調査実施にあたって、ISS通訳研修センターと受講生の協力をいただいたことに感謝し、また今後の通訳指導の参考資料となることを期待したい。
                                      以上

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