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通訳の仕事の準備について
(以下の内容は95%ホントのことです)

三月十日(水) 

 十七日(来週の水曜日)は農業関係の講演会通訳の仕事である。午後だけなので、それほど大変ではないはずだ。講演原稿も昨日早々と届いている。今のとこ、ちょっとヒマだし、ざっと見ておこうかなー。ラインマーカーで知らない単語にシルシをつけて、っと。

・・・・

  將抗蟲性基因轉殖到農作植物體内之技術,在近幾年正被快速的研究發展中,但迄今僅有蘇力菌(Bacillus thuringiensis, Bt )所産之Bt 毒素蛋白質已被商業化量産,因此本篇報告即介紹現今已被開發完成之其他抗蟲性基因,並提出未來此類研究發展之前瞻性與困難。作者首先介紹抗蟲性基因之來源可分成三大類:(1)微生物類,如蘇力菌之Bt 毒素與原野菌屬真菌之異戊[火完]基轉移[月毎]膽固醇化[月毎];(2)高等植物類,例如各種蛋白酵素或是澱粉酵素之抑制劑;(3)動物類,如絲an酸蛋白酵素抑制劑小牛yi蛋白酵素抑制劑幾丁質酵素。此三大類抗蟲性基因之抗蟲機制大多與蟲體之代謝途徑中酵素結合,導致蟲體代謝異常致死,少數是直接對蟲體本身器官造成破壞致死或降低其繁殖力。現今所對抗之病蟲包括鱗翅目鞘翅目同翅目等所含之昆蟲。可是由於基因來源不同,當轉殖到農作植物中,造成基因表現高低不一之情形,所以需有良好的啓動子(Promoter)篩選標誌基因才能更順利完成此類基因轉殖工作,本文介紹幾種啓動子,如CaMV35S啓動子皮部啓動子傷口誘導性啓動子,而篩選標誌基因則提供如新黴素濕黴素核酸轉移酵素(II)基因耐除草劑基因均被開發利用中。未來對於將上述抗蟲性基因轉殖到農作植物之技術,仍將持續不斷在公家或民營單位被研究進行,甚且可能發展將多種抗蟲性基因轉殖到同一植物體内,以加強其抗蟲性保護,也避免並重之抗性基因突變種衍生。總之,抗蟲性基因轉殖植物將是未來農業生物技術中不可或缺之一種。

……後略

 

  ……。 思わず目の前が真っ暗になる。な、何なんだ、これは!

 ともあれ、シルシを付けまくりながら八ページの講演原稿に全て目を通して今日はおわり。

 

三月十一日(木)

 普通の辞書にこういう単語が載っているわけはない。それに中国語の専門辞書は「日→中」が圧倒的に多く「中→日」というのはあまりない。ハイテク農業、バイオテクノロジー関係は今回が初めてなので、自宅にも参考書はない。テクテクと歩いて地域の図書館に行き、ハイテク農業やバイオ関連の本を借りた。一冊は入門書、主に遺伝子組み換え食品について書いてあり、巻末に詳しい索引があるので役にたちそう。二冊めは割合に専門的なもので、バイオテクノロジー全般に関して学術的に書いている。三冊めはブルーバックスのバイテクノロジー用語辞典(用語説明、英語索引つき)。最後の一冊は現代農業のあり方に関する本である。
 とりあえず、入門書をじっくり読んでバイオ技術や遺伝子組み換え食品に関する基礎的な知識を仕入れることにする。ついでに、出てきた専門用語を次々にパソコンに打ち込んでおく。

三月十二日(金)

 さて、今日も昨日の続き。二冊目のちょっと難しめの本を読み始める。半分まで読んだところで電話が鳴り、翻訳の依頼が入る。「急ぎでわるいけど月曜日の朝イチで」とのこと。バイオの講演会通訳は水曜日だから、まあ十分間に合うだろうと思い、二つ返事で引き受ける。これが環境保護関連の割に専門的な内容で、訳語がすんなり見つからないのがいくつかあって、ちょっと焦る。あちこちの辞書をひっくり返し、CD-ROMの百科事典を引き、関連サイトを覗きながら、どうにか翻訳するが、結構、時間がかかる。

 翻訳に疲れたので、インターネットでバイオ関連のサイトを探してあちこち見て回る。中国語の検索エンジンからも「生物技術 農業」でサーチするといくつか見つかった。しかし、いつも思うのだが、自分の期待にぴったりはまる記事というのは意外に少ないものである。

三月十三日(土)

 今日は通訳スクールの公開講座見学と講師懇談会なので朝から外出。昼食から始まった講師懇談会がなんと夕方六時半まで。行き帰りの電車の中でノートパソコンを使って翻訳の続きをやっていたのだが、往復でたった二ページしかできなかった。

三月十四日(日)

 とにかく、今日中に翻訳を終わらせなければマズイ。通訳の事前準備はちょっと小休止。一日中翻訳の仕事。HPの更新が間に合わないので、一言お断りを書いて表紙だけ出す。明日朝イチ締め切りの翻訳原稿を夜おそく送信して、ほっと一息。

三月十五日(月)

 通訳用の対訳用語集を作り始める。「日・英・中生物化学用語辞典」があるので、英語索引のあるバイテクノロジー辞典と併用しながら、英語をキーにして中日対訳用語集を作成することができるが、まあ、これが、手間がかかるのなんの…。用語集に厭きると、原稿読みと通訳用メモの作成をする(この通訳用のメモの作り方はいずれご紹介しますね)。
 昼前に翻訳の依頼があったが、来週の月曜日締め切りでいい、というので、とりあえず引き受けておく。自由業だと、次の仕事がいつ来るかわからないので、どうも仕事を断ることができず、自分で自分の首をしめることになるのである。


(左)仕事の予習をしている時の机  (右)ファイルに綴じて原稿の裏を利用しメモを作る

junbi1.jpg (230454 バイト)   junbi2.jpg (230454 バイト)

三月十六日(火)前日

 いよいよ明日なので、とにかく今日中に全部予習しなければならない。上の写真の左側は、参考書や辞書を広げながら通訳用のメモを作っているところ。

 さて、上に掲載した写真のメモはどうやって作っているかを紹介しよう。左側の中国語原稿の内容を見ながら右側にその内容を日本語でメモしていく。上の写真の部分は専門用語が羅列されているところだ。おぼえにくい専門用語はすぐに見つかるように色を変えたペンを使って対訳で書いている。

 この作業は、たとえば全部で10頁の原稿だったとすると、次のように行う。

  1. 一番上にp.10が、一番下にp.1が来るように10、9----2、1と順序を逆にして並べ替える。
  2. p.1の裏側が一番上に来るように全体をひっくり返す
  3. 左側に二穴パンチで穴をあける。
  4. そのまま二穴ファイルに綴じる。
  5. これを開くと、左に本文、右は次の頁の裏側の白い紙になっている。
  6. 左側を見ながら右側にメモを作っていく。

但し、両面コピーだとこの方法は無理。
 
 この通訳メモは、これを現場で見ながら通訳をするというよりも、話の内容をなるべく正確に理解するために行う作業である。逐次通訳にしろ、同時通訳にしろ、仮に原稿をそのまま読むのであれば、このメモを見ながら訳出していくが、一般的に言って、事前に用意した原稿をベタで読む発言者はむしろ少ない。ひたすら翻訳するようなことをすると、あんまりモノを考えないのでやめたほうがいい。モノを考えずに字を書いても理解や記憶の助けにはならないからだ。そこで、通訳の予習をする時は翻訳をするのではなくて、情報のまとまりごとに分けてブロック化し、各ブロックに見だしをつける。さらに各ブロックの関連がわかるような形で理解を定着させるのがよい。

 今まで色々な予習方法を試してきた。原稿の行間に訳語を書く方法が最も一般的で最も簡単なのだが、どうも、もう一つしっかりと理解できないような気がする。全部翻訳するのは時間がかかりすぎるし、上述したように字面を訳す態度に陥りがちだ。現時点で一番効果的だと思うのは、対訳用語集を作成することと、メモを作ることの二本立てで予習する方法である。用語集にしても、通訳用メモにしても、できあがったものを利用することが目的なのではなく、作成することを通じて内容を理解し、自分自身の知識として定着させることにある(だから、日華翻訳雑誌に私が仕事で作った対訳用語集を公開しているが、これをそのままダウンロードして得をしたような気分になるのはやめたほうが良いですよ。自分で調べて、自分の手で書いたり入力したりしないと身に付かないから)。

 → バイオテクノロジー用語集

三月十七日(水)本番の日

 午後二時から全日空ホテルの会議場だが、電車の事故などで遅れる可能性もあるし、何が起こるか分からないので、早めに出かける。重たいけれど、一応、お守り代わりに「日・英・中生物化学用語辞典」も鞄にいれておく。電車の中でも何度か資料を見直す。一時間半くらい前にホテルに到着。あまりお腹一杯いただくと声と頭に良くないので、コーヒーショップで覚醒効果のあるコーヒーと脳のエネルギーになる糖分補給のための小さいケーキを頼んで、参考資料を見ながらゆっくり心の準備。

 三十分前に会場に行って、クライアントの担当者に挨拶し、マイクの具合や通訳者の位置(OHPが見やすいかどうか、聴衆の観察がしやすいかどうか等)を確認する。

 十分前に講師の農学博士が会場にいらっしゃった。予習でどうしても分からなかった単語について質問し、英語のスペリングも教えてもらう(博士はアメリカで学位取得したので英語は得意)。とても温厚な紳士で、私の通訳用予習メモを見て、「私が難しい原稿を出したせいで、あなたにこんなに苦労させている!なんと気の毒なことをしてしまったんだろう。しかし、よく勉強して感心なことだ」と言ってくれた。こういう話し手は通訳者にも協力的で「分からなくても言ったとおりに訳せ」などという暴言を吐かないので大好きだ。
 さて、なんで英語の言い方を質問したかというと、バイオ関係の学者や専門家が聞きに来る講演会なので、たいていの人は専門用語は英語でわかっているから。中国語の漢字をそのまま読んでしまったら通じないけれど、カタカナならわかるのである。しかも、私の持っている二冊のバイオ関係辞書には英語の索引しかない。私は、本当は英語が嫌いなのだが、どうしても仕方ない場合には、悔しいがやはり英語が便利なのだ。

 幸い、博士の中国語には訛りもなく、早口でもない。原稿通りには読まずに、普通に喋るという。それも大歓迎だ。原稿の棒読みは理解しにくいし、聞き手としてもあまり楽しくない。
 今回の講演会は逐次通訳で行った。だいたい、二分程度でうまく話を切りながらわかりやすく話してくれたので通訳はやりやすかった。話し手と通訳者の息が合うときには、大体において仕事がうまくいく。

 内容はバイオテクノロジーの推進に関する話で、農林・水産・畜産を網羅し、それぞれの分野で遺伝子組み換え技術がどのように応用されているか、食品への応用における安全性検査の問題、今後の展望など、非常に興味深いものだった。最後の質疑応答では導入遺伝子の形質が第二代でどの程度保たれているか、また遺伝子組み換え食品に対する消費者の不安感をどう解消できるか、などの質問が出た。

 帰り際に博士が「ちょっとロビーで待っていなさい」と言うので、まだ誰かと話したいのかなー、と思いながら待っていたら、急いで自分の部屋に戻ってお茶の缶を一つ持ってロビーに降りてきた。「こんな物しかないけど、お礼のしるし」。あー、今日の仕事は成功だったんだなー、と思った。

 午後五時をまわって、さすがにお腹がすいたので、帰りにチャンポンを食べてから帰宅した。

 通訳者の仕事って、だいたい、毎回こんな感じです。おもしろかったですか?

以上