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ISS通訳研修センター日中通訳コース本科 ガイダンス用教材

1.通訳の原理

(1)通訳訓練の前提

 言語能力と知識を母語、外国語の両方で身につけているか。

(2)通訳による三者二言語情報伝達

 話し手から発信された言葉(SL)を通訳者が聞き手に理解される言葉(TL)に

変換処理を行う際にたどるプロセスは、単なる単語の置き換えと並べ替えではない。

 下記に示すように、話し手は聞き手に伝達したいメッセージに基づき、自分の

知識の範囲内で語彙を選択し、文を構成し、音声言語として発信する。

      話し手                        通訳者                     聞き手

intmo.gif (3728 バイト)

□意味・意図       ■音声認識         ■音声認識

□語彙選択・文構成    ■語彙・文構成分析     ■語彙・文構成分析

□音韻構成→発話     ■発話の意味・意図を理解  ■発話の意味・意図を理解                 ↓

             □語彙選択・文構成

             □音韻構成・発話 

             □その場の状況(コンテキスト)による調整 

(3)通訳者が伝達する内容

聞き手の伝えたい内容は、「ことばの音、文法構成、用いた語彙」ではなく、「発言の

意図と意味」である。上図で示したような挨拶語は相手に対する敵意がないこと、これ

から何かを話し合いたいという前触れ等々の意図を含んでいる。通訳の情報伝達とは、

発話において表出された音声記号を手がかりにして、その場の状況を参照しながら発話

の意味や意図を分析理解し、その意味と意図を伝達するのに最も適切なTLの語彙を選

択し、TLの語法に従って新たに発話を構成し、音声表現を用いて、聞き手に伝えるこ

とである。このとき話し手のメッセージに含まれる内容、あるいは話し手が聞き手の頭

の中に産出したいと願っているメッセージと、訳し手が伝え、聞き手の頭に生じたメッ

セージあるいはイメージがほぼ同等であることが、正確な通訳の条件となる。即ち、通

訳者による情報伝達は、表層に現れた文字通りの意味を取るだけでは不十分で、必ず深

層構造まで分析する「深い処理」を必要とする。

訳し分けの例:

「人を作り、物を作り、富を作る」→「培養人材,生産物品,創造財富」

【練習】 下記の例で助詞「の」はどう訳されるべきであるか。

  「大阪の会議」・「三日間の会議」・「中国経済の会議」・「国連の会議」

2.基礎訓練の方法

(1) 聴力を養う

通訳者には独特の聴取法がある。普段と同じ日常的な聞き方で漫然と聞いているので

は通訳はできない。言語能力と知識を前提として、次に重要なのが直解聴取法である。

この聴取法を習得するために、次の方法によって訓練を行う。学習目標は、語や句の

単位で速やかに意味をつかむことにより、通訳者に必要な反応力を養うことである。

逐次通訳であっても、SLを聞いた瞬間に意味が取れなければ、通訳は不可能だ。

一語一句を確実に受け止める習慣を養うために次の練習を行う。

区切り聞き:文節ごとに区切った単位で音声を聞き、SLまたはTLで再生する。

      一言ずつ意味を確認しながら聴取するよう心がける。

リテンション:一文ずつ聞き、SLで再生する。

(2)分析力と理解力を養う

文字教材を用いた訓練を行う。通訳の実践との関係で言えば原稿付き逐次/同時通訳

と結びつく。原稿を見ながら訳出可能な単位ごとに斜線を入れ、文章に切れ目をつけ

ていく。上記の区切り聞きを紙の上で行うことになるが、スラッシュ・リーディング

ではさらに訳出を意識した戦略として文法的に分析しながら解読していくことになる。

スラッシュ・リーディング:訳出単位ごとに斜線を入れる。句を( )で括る。

       主語−述語、係り受けの関係を確認する。接続詞にマークする。

例:(任何値得我們注意的)>文化現象)總會有(一個傳播的幅度)// 初一看,/傳播總是好事,//

傳播得廣一点,久一点,/就能提升(一種文化得价値) //使它(在更大得時空范圍内)接受考驗 //不断自我調整,

自我完善。//這有什麼不好口尼?

(3) 表現力を養う

前ページで述べたように、TLに変換する際にはSLの語彙や文構造をそのまま用い

るのではなく、深層の意味によってTLを新たに創出する。そのためTLはしばしば

別の言い方に変更される。前出の例では日本語の「作る」を「育成する」、「製造

する」、「創出する」としたり(上位概念から下位概念への言い換え)、「大阪の

会議」を「大阪で開催される会議」とする(補足的言い換え)ことで、中国語らしい

表現に訳している。他にも、「先生から褒められる」は中国語では受け身の「被」を

使わず「先生が褒める」の構文にする(文法的言い換え)、「百円しかない」を

?百円だけある」とする(語彙的言い換え)、「のれんに腕押し」を「全く反応が

ない」とする(説明的言い換え)、など様々な言い換えが行われる。SLの発想を

TLの発想に置き換えることで聞き手に理解しやすい表現で情報を伝えることが可能

になるわけだ。特に、中国語−日本語間の通訳では漢字語をそのままTLに持ち込み

がちになる。これを防ぐ意味でもSLに出現した漢字語を言い換える練習は重要で

ある。

パラフレーズ:意味を保持しつつ別の言い方に言い換える練習。

【練習】次の語句または文をパラフレーズせよ。

・「水に流す」  

・「外国語を使いこなすまでには何年も勉強しなければならない。」

(4)音声表現力を養う

 通訳者は聞き手に快い発音、発声、話の速度、間の取り方、抑揚を心がけるべきで

ある。シャドーイングと音読の目的は、適切な速度と抑揚、間の取り方を習得する

ことにある。

シャドーイング:テープにあわせて同時に復唱する。

音読:文章を音読し、自分の声をテープに録音する。正しい発音と発声に重点を置く。

(5)全体の要旨をつかむ

逐次通訳の場合は、個々の情報だけでなく、談話全体の構成を把握し、要旨をつかむ

理解力が必要である。全体の枠組みを構築することで適切な部分を創り出すことが

可能になる。このような要旨把握能力を習得するため、ノートを取らずに聴く練習を

行う。このときは細かい脱落は気にせずに、談話の筋道をとらえるよう注意する。

 リプロダクション:ある程度のまとまりのある談話を聞き、要旨を自分の言葉で再

現する。

                                   以 上