警察、裁判所の通訳
司法通訳人
公正な裁判を助け、 外国人の人権を守る

司法通訳とは
外国人が日本で犯罪に巻きこまれると 逮捕→取り調べ→起訴→裁判
逮捕から取り調べ:警察の通訳吏員・民間通訳人
裁判所での通訳をするのが法廷通訳人 法廷通訳人は多くの場合、被告人の横に座る
被告人の為にだけ通訳をするのではない
裁判官、弁護人、検察官、被告人、時には証人の立場にたって通訳をする
法廷で使用された外国語(H.17年)
通訳翻訳人のついた被告人数
平成20年  4,598人
平成19年  5,870人
平成18年  7,628人
平成17年  9,361人
平成16年 11,174人
平成15年 11,168人
裁判所ホームページより抜粋
法廷通訳の流れ
司法通訳の募集と派遣
 各都道府県の警察、検察庁、裁判所、弁護士会が言語別に通訳者名簿を作成し、必要に応じて依頼しているのが現状である。外国人が関係する事件が多発する地域では警察内に通訳センターを設け、警察の取り調べ室での捜査官と被疑者とのやりとりや、検察官の取り調べを通訳する要員を派遣する業務を行っている。

通訳人候補者の募集について
http://www.courts.go.jp/oita/saiban/tetuzuki/tuyaku.html
大分簡易裁判所の募集例:通訳人は,外国人刑事事件の法廷において,日本語の発言を外国語に通訳するとともに,被告人の発言を日本語に通訳する仕事をします。したがって,通訳人は,被告人の権利を保障し,適正迅速な裁判を実現する上で非常に重要な役割を担っています。  通訳人は,個別の事件ごとに,最高裁でとりまとめている通訳人候補者名簿を参考にするなどして裁判所が選任しますが(裁判所職員として採用されるわけではありません。),現在,大分地裁では,我が国で理解する人が少ないいわゆる少数言語を中心に,通訳人候補者の確保に努めているところです。  通訳人候補者には大学の先生や,海外赴任の経験のある会社員,留学生,家庭の主婦など様々な方がいます。語学の堪能な方で,法廷での通訳をしてみようという方は,是非,御応募をお願いします。
参考サイト
http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1606.html
http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/1903_houteituyaku.html 
http://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tuyakunin.html
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/22350/1/12_P1-41.pdf
法廷通訳
資格試験はない
検察庁、裁判所、弁護士会が言語別に通訳者名簿を作成し、必要に応じて依頼
仕事の内容
検察での取り調べの通訳
弁護人との接見に同行して通訳
起訴状、冒頭陳述書の翻訳
裁判の通訳
報酬は一時間あたり6,000〜10,000円程度

司法通訳の仕事
いつ事件が起き、いつ容疑者が逮捕されるかは予測ができず、したがって、いつ通訳の依頼があるかは皆目見当がつかない。しかも取り調べは深夜に及ぶことも多い上、連日続くこともあり、ハードな仕事と言える。
日本では司法通訳人になるための資格制度が確立していない
各地方裁判所や県警などで必要に応じて募集しているが厳しい審査はないのが実情
裁判員制度で負担が増す通訳業務
司法通訳人に求められる資質
日本の司法制度や法律について熟知していること
第三者としての考えを交えずに正確に訳すこと。一語一句漏らさずに訳す
中立的な立場に立ち、私情を交えないこと。
守秘義務を守ること。仕事上で知り得た事柄を口外しないのは当然の職業倫理
警察通訳
雇用形態
正式に雇用された警察職員「通訳吏員」
県警に登録したフリーの通訳者「民間通訳人」
仕事の内容
捜査現場に同行しての通訳
取り調べの通訳
弁護士の通訳
応募資格
正式職員と民間通訳人で条件が異なる

実例で見る司法通訳の問題点
道後タイ人女性殺人事件
メルボルン事件
ニック・ベイカー事件
道後タイ人女性殺人事件の概要
 1998年に高松高裁で結審した道後事件がある。性産業で働かされていたタイ人女性が、同国人の元締め女性を殺害した罪に問われた。
 一審の日本人通訳人はタイ語の日常会話すらできず、法医学鑑定人も呼んだ二審のタイ人通訳人は日本語能力が不十分だった。
 にもかかわらず裁判所は、殺意がなかったという被告人の主張を退け懲役八年の実刑判決を言い渡した(確定)。
道後タイ人女性殺人事件の記録
 『通訳の必要はありません』  
 深見史 著 創風社出版  

   愛媛県松山市道後で起こったタイ人女性殺人事件の裁判は、満足な通訳もないままに進んだ。判決の日、裁判長は被告に有罪を宣告、懲役八年を申し渡した後、こう述べた。判決理由の補足説明については、通訳の必要はありません。検察、弁護人、日本語のわかる傍聴人は聞いてください」補足説明」は長かった。法廷内でそれが理解できない者はただひとり、被告だけだった。著者は言う「私が出稼ぎに行かなくてすみ、売春をせずにすみ、牢屋に入らずにすんでいるのは私が立派な人間だからではない。」
道後タイ人女性殺人事件 松山地方検察庁での取り調べ通訳
通訳人:タイ人主婦 日本人男性と結婚し、滞日歴も長い。四国四県の裁判所を管轄する高松高等裁判所管内で登録された唯一のタイ語法廷通訳人 後に、松山地裁から法廷通訳を求められたが、外国語通訳の重要性に言及した新聞記事を読み、とても責任が取れないとして断っている
供述調書:「確定的殺意」にもとづく犯行であったことが被告自身の語った言葉として記録された
道後タイ人女性殺人事件 第一審の通訳
通訳人:タイに二年間住んだことのある日本人主婦。
通訳能力の決定的な不足
弁護人の「被告の実家は貧しかったですか」との質問を通訳する際、辞書を引いたがどうしても見つからなかったらしく辞書をバタンと閉じ、被告に向かって、 日本語で「あなた、びんぼう?」と聞いた。
第一審の通訳人についての 弁護人と裁判長の意見
弁護人の言い分:「通訳人があまりタイ語ができないことは知っているが、たいした事件じゃないし、あれくらいの通訳でいい、通訳能力がないからやめてというのは失礼」
通訳人は第一回公判(通訳初体験)で自分の通訳力のなさを痛感し、辞退を申し出た。 裁判長は「だいたい分かればよい」とこの通訳人を慰留した。
道後タイ人女性殺人事件 第二審の通訳人
通訳人:タイ人女性通訳。 大阪地裁に依頼して来てもらった。日本人と結婚して長く大阪に住んでおり、法廷通訳の経験も十年以上。
通訳能力:流暢とはとても言えない日本語。時制の混乱、明らかな誤訳、日本語能力の低さは明らかであった。
道後タイ人女性殺人事件 第二審の通訳
通訳人の日本語の例:「たぶん、スーすわるの態勢、おこする自分が立ち上がるの態勢、上半身だけますくしてたちあがるだった」、「すぐ振り向いたでない、マリの声が、私は人の、マリは、私は、スーの喉にナイフで切ってしまったよ、と……」
複数通訳人採用の願い出:支援団体はタイ人通訳人を補佐するタイ語に堪能な日本人通訳人を法廷に配置するよう求めたが、裁判長には届かなかった。
メルボルン事件
1992年6月、メルボルン空港で、日本人観光客4人が持っていたスーツケースの中から約13キログラムのヘロインが発見された
そのスーツケースはツアーガイドからプレゼントされたものだった(観光客自身のスーツケースはクアラルンプールで盗難に遭っている)
日本人観光客はスーツケースにヘロインが入っていることを知らなかった
裁判の結果、4人及び同行者1人に対して懲役15年及び20年の実刑判決が下された

メルボルン事件・通訳の問題点
空港での聞き取りでは法律の知識が全くないツアーガイドに通訳をさせている
警察における取調べでの通訳の不備
取り調べの通訳人を九時間連続で酷使している 
通訳人自身の能力不足

http://www.kinran.ac.jp/univ/index.cfm/6,734,17,73,html
メルボルン事件・通訳人のミス
「弁護士を呼ぶことができる」 通訳が弁護士のことを弁護士と訳せず、「えーと、法律のですね、関係した人に連絡をとりたいですか」と訳した
無料の法律扶助を意味する「 Legal aid 」について「リーガルエイドという法律に関連した組織がございますけれども、そちらに連絡をとりたければ」というようにしか訳さず、無料で弁護人についてもらえるという、大事な点を説明しなかった
入国管理局と訳すべき immigration を「移民局」と訳したため質問の意味が理解できなくなっている
メルボルン事件・通訳人のミス
「あなたはそういう話をでっちあげたのか」という質問がされたのに、通訳者が、「でっちあげる」を意味する「 make up 」をでっちあげと訳せず「そういうふうなことだというふうに、言っただけですか」と訳してしまったために、浅見喜一郎さんは、「でっちあげたのか」という質問に、いったん「はい」と答えてしまい、その後、もう一度確認されて今度は「いいえ」と答えるという混乱が生じた
メルボルン事件・通訳人のミス
荷物がなくなったレストランでの行動を尋ねる場面で、「レストランを出た後は何をしましたか」や「車の所に戻った時にはどうしましたか」という質問がされた際、通訳人は「レストランを離れるときに、何があったんですか」「車の所に移ったときに何がありましたか」と訳してしまい、それに対する答えが、「何もないです」となり、まるで、供述をわざと拒否しているように聞こえてしまった

ニック・ベイカー事件
2002年4月13日、イギリス国籍のニコラス(ニック)・ベイカー氏が知人A氏と来日した際、税関検査でベイカー氏が手にしていたスーツケースが二重底になっており、合成麻薬約4万錠とコカイン約1キロが隠されていたことが判明する。ベイカー氏は、スーツケースの持ち主はA氏であり自分は何も知らないと主張するが、ベイカー氏のみが現行犯逮捕された。A氏は全く取調べを受けずに2日後に出国、約1ヵ月後にベルギーで他のイギリス人3人と麻薬を持ち出そうとした容疑で逮捕されている。ベイカー氏はその後5月2日に起訴され、翌2003年6月12日に千葉地方裁判所で懲役14年・罰金500万円の有罪判決を受けた。http://wwwsoc.nii.ac.jp/jais/html/community/nick_baker01.doc

問題の所在
被告人の英語の特徴
通訳人の資質・能力
通訳人選任体制の不備
意思疎通の成否の確認方法

被告人の英語の特徴
ロンドンおよび周辺地域の英語の特徴
1)単語のはじめ、あるいは音節の初めのHの音声が落ちる。
  例:“him”が”im”に、 “behave”が “be-ave”
2)th の音が fになる。
3)t などの子音がGlottal stop(声門閉鎖音[破裂音])になる。例:”bottle”が”bo’le”、”water”が”wa’er”
  子音がはっきり発音されずに突っかかったような感じに聞こえる。
4)母音の「エイ」が「アイ」になる。
  例:”Sunday”が「サンダイ」のように発音される。
5)母音が普通の英語に比べて長くなる。
  例:”down”が「ダーン」
通訳人の資質・能力 (1)
英語および通訳能力
    被告人の英語が理解できない
    通訳人の英語が被告人に理解できない
    → コミュニケーションの齟齬
       被告人の主張の首尾一貫性に影響
       被告人に対する悪い心証の形成
       
コミュニケーションの齟齬の例(1)
物事の程度、度合いに関するトーンダウンとニュアンスの歪曲

       「頻繁だった」→「数回」

       「良くないか、少しまし」
         →「良い人もいたが悪い人もいた」

     
コミュニケーションの齟齬の例(2)
通訳によって生じた混乱
   主語を取り違える
   内容が逆になったり、ニュアンスが変わる
     「毎回異なる」→「毎回同じ」
   不適切・不自然な訳語が用いられた
コミュニケーションの齟齬の例(3)
明らかな誤訳

スーツケースについて聞かれて
“It ain’t mine.” →「構いません」

「抗生物質」→「輸入禁制薬物」


コミュニケーションの齟齬の例(4)
被告人の英語が聞き取れないことによる省略と創作
  
    通訳人による直接問答
    大幅な省略
    勝手な判断で創作
  
通訳人の資質・能力(2)
倫理意識・プロフェッショナリズムの欠如

 被告人の英語に対する自己の理解力の限界を認識し、それに対する措置を講じる必要があるのに、そうしなかった
   
通訳人選任体制の不備
通訳人の能力に対する認識不足
   TOEIC,英検などで判断

取り調べで通訳人が何回も変った
    訳語の一貫性が損なわれる
    被告人の発音に慣れることができない
    


意思疎通の成否の確認方法
「読み聞け」による確認
    同じ通訳人を介して「読み聞け」をしても意味がない。

英語が通じていることの確認方法
    被告人に「通訳人の英語はわかりますか」と聞く
    だけで、通訳人に被告人の英語が通じているか  
    に関しては、何の確認もない
    
まとめ
英語であれば意思疎通に問題はないという思い込みが存在。
英語力があるだけで通訳できるものであるという誤った認識。
通訳人によるミス・コミュニケーションの問題が完全に無視されていた。
意思疎通の成否が適切に確認されなかった。
通訳人自身にプロとしての自覚が欠けていた。




ベニース事件  2010年3月21付け朝日新聞
大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で、司法通訳人2人が外国人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言では全体の60%以上になると指摘している。被告の弁護人は「裁判員らの判断に影響を与えた可能性が高い」とし、審理を地裁に差し戻すよう控訴審で求める。
ベニース事件
この被告はドイツ国籍の女性ガルスパハ・ベニース被告(54)。知人女性らから依頼され、報酬目当てで覚せい剤約3キロをドイツから関西空港に運んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、懲役9年、罰金350万円の判決を受けた。
ベニース事件
南アフリカ生まれの被告は英語が母語であることから、地裁は男女2人の英語の司法通訳人を選任。2人は交代で通訳にあたった。被告は法廷で「違法な薬物を運んでいるという認識はなかった」と無罪を主張したが、判決は「罪を免れるための虚偽」と判断し、容疑を認めた捜査段階の供述のほうが信用できるとして実刑を導いた。
ベニース事件
控訴審から弁護人になった渡辺●修(ぎしゅう、●は「豈」の右に「頁」)弁護士(大阪弁護士会)は今年2月、通訳内容を検証するため、司法通訳人の活動実績もある金城学院大文学部の水野真木子教授(通訳論)に、地裁が2日間の審理の過程をすべて録音したDVDの鑑定を依頼した。
ベニース事件
その結果、主語と述語がそろった文を二つ以上含む被告の発言の65%(61件中40件)で、意味を取り違える「誤訳」や、訳の一部が欠落する「訳し漏れ」があったとした。「はい」「いいえ」といった一言のやりとりを除く短い発言を含めると、通訳ミスは全体の34%(152件中52件)でみられたという。水野教授は、鑑定書で「通訳人は発言内容を十分理解していない」と指摘。裁判員らの心証形成に影響を与えた可能性が大きいと結論づけた。
ベニース事件
鑑定によると、たとえば、被告人質問で弁護人から「結果として覚せい剤を持ち込んでしまったことへの思い」を問われた際、被告は「I felt very bad」と答えたが、男性通訳人は「非常に深く反省しています」と訳した。水野教授は「心や気力が砕かれた状態をいう表現で、反省の弁ではない」と指摘する。
ベニース事件
また、覚せい剤が入っていたスーツケースに知人女性が白い結晶入りの袋を詰めるのを見たと話していた被告が、検察官の質問に「nothing done with the suitcase」と述べた部分を、女性通訳人が「スーツケースには何の細工もされていなかった」とせずに、「スーツケースは空だった」と訳したのも文脈からすれば誤り、としている。
ベニース事件
渡辺弁護士は「無罪主張の被告が急に反省の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたように受け止められた恐れがある。被告が適正な裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは明らかだ」と話す。
ベニース事件
一方、法廷での通訳を長年務めてきたという担当通訳人の男性は取材に「通訳人2人のチームで臨み、最善を尽くした。裁判員と裁判官は、すべての証拠を総合的に判断したと理解している」と話している。大阪地裁の広報担当者は「個別の裁判に関してはコメントしない」としている。
司法通訳の実際
司法通訳研修用ビデオを見て理解を深めましょう。