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           日本語から中国語への同時通訳分析

                                永田 小絵

 会議の現場で録音したテープをもとに、同時通訳の分析を試みた。
[条件]SL:日本語、TL:中国語
    通訳者(報告者)は日本語のネイティブ・スピーカー。
    実例1)原稿を読みあげる形式のスピーチ、サイトラで同時通訳
    実例2)資料提供による事前準備あり、原稿なしの同時通訳
[目的]@SL/TLのずれの程度、A構文の違いの解決方法
    Bサイトラ−実例1と、原稿なし−実例2で訳出上の相違点があるかどうか。
    以上を観察すること。
[予測]サイトラの場合は、@TLがSLに先行することがある。
             ATLでオミットされる部分が少ない。
             B相対的に正確かつ忠実である。

注:・文中の番号は一応の意味のまとまりとして記入した。
  ・文中で下線を引いてある部分はSLとTLが対応していることを示している。
   SLの下線のないところはTLでオミットされていたり、違う表現になっている。
  TLで下線のないところはSLにはない言葉を加えたり、違う表現になっている。
・実例の1行めはSL、2行めはTL、3行めに中国語通訳の直訳をつけた。

実例1)国際金属労連世界大会での豊田章一郎氏のスピーチの一部。
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  1私どもが在庫を持たない本当のねらいは2在庫を持たないことでトラブルをトラブル←
 ― ― ― 7 秒 − − → 1 我們之所以主張零庫存的理由,是 2 如果没有
                 我々が在庫ゼロを主張するわけは、もしも在
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として3発見させる、そしてトラブルの原因を、そのものを 4なくするように、こう、
庫存的話 , 3比較容易発現,発生問題的根源所在,*  麼就,4比較容易解決問題。
庫がなければ、 比較的容易にトラブル発生の原因を発見でき、それで問題が解決しや
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させてゆく というわけであります。5私どもの考え方やねらいを 6現地の従業員やサプラ
← − − − − − 9 秒 − − − − − − − →  *  外 6当地
すくなるということです。                    ほかに、現地の
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イヤーに 7 しっかりと理解してもらいさらに8実践してもらうのは 9なかなか大変なこと
的員工和零件供応商 7要譲他們徹底理解 5 我們的這個想法, 8 譲他們按照這個想法
従業員やサプライヤー、彼らに我々のこの考え方を徹底的に理解させ、この考え方にそ
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でありました。10またNUMMIは1982年に 11 旧BM工場を利用するかたちで設立され来
做事 9這是相当吃力的工作。      10 還有,NUMMI是在1982年10利用
って仕事をさせるのはかなり大変な作業でした。またNUMMIは1982年に、もとのGMの
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ました。12従業員もその80%が13 旧GMの従業員を採用しての14 スタートでした。
原来的GM工廠而設立的,開始生産的時候12員工的百分之八十13原来在GM工作過的
工場を利用して設立され、製造開始のときは従業員の80%が以前GMで働いていた
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15 私どもの考える16労使の在り方、17つまり 相互信頼とか、‥‥‥‥‥‥
14 我們是這様開始的。15 我們強調的 16 労資関係,17 就是,相互信頼‥‥‥
のです。我々はこのようにスタートしたのです。我々が強調している労使関係、即ち相互信頼とか、……
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実例2)北京での文化財建築保存技術シンポジウムの発表の一部。
  およそ三週間前に論文が送られてきたので、用語の問題は基本的には解決していた。
 会議前夜の打合せのメモをもとに通訳した
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
先程瓦は何回も使える、と申し上げました、 2 その瓦を使う技術のひとつとして
           1 剛才我跟各位介紹,瓦可以多次利用, 2 這個技術,最近也有
      先程皆様に紹介しましたが、瓦は何度も利用できます、この技術に最近
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3 古い瓦をもういちど窯の中に入れて焼きなおすという方法がとられています。
了新的技術発展,        * 就是説,3 把古代的瓦再次放進焼瓦的窯里,重新
新しい発展がありました。 つまり、昔の瓦をもう一度瓦を焼く窯に入れて、再度焼き
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4 これは現在のところ、試験的にやっている、えー、一部で試験してるところでして、
焼制。           * 不過,4 目前這個技術還在試験階段,在部分地区進行
いれるのです。     しかし、現在この技術はまだ試験段階で、一部の地域で試験
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5 うまくいくときは成功します、6 駄目になってしまうときもあります。
試験的階段。             5 有的時候成功,6 有的時候失敗。
しているところです。       時には成功しますが、失敗するときもあります。
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7 これには条件がひとつありまして、8 昔の瓦の原料のねんどの中に鉄分が多い場合には
           * 但是,7 在這里要有一個条件,* 那就是,
           しかし、これには条件がひとつ要ります。それはつまり、
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9 焼いたあと、10 瓦の表面に鉄分が浮きだしてきてしまいます。だから、瓦の‥‥
     * 如果 8 古代瓦原料的鉄的含有量很多的話,9 在重新焼制以後,10 在瓦的
      もし、昔の瓦の原料に鉄の含有量が多いと、焼きなおしたあと、瓦の
表面上会冒出鉄的成分,11 所以,瓦的‥‥‥‥‥‥‥‥
表面に鉄の成分が出てきてしまう、だから、瓦の‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
実例1)
・サイトラだが、先出しはなく聞いたあとに訳語が出ている。
・通訳者が黙っている時間がわりあい多い(原稿を読む速度はかなり遅かった)。
 中国語は日本語に比べて同じ情報を伝えるのに短い時間ですむ(直訳の日本語と比較す
るとよくわかる)。
実例2)
・SLにない接続詞が比較的多く使われた(* 記号で示している)。

[分析結果]

  実例1  実例2
SLとTLのずれ(チャンク) ≦3   ≦2
訳されなかった語 本当の、トラブルをトラブルとして、そして、そのものを、ように、こう、というわけであります、ねらいさらに、かたちで、の従業員を採用しての、 その瓦を使う、ひとつとして、という方法がとられています、えー、うまくいく、ねんどの中に、 
付け加えられた語 それで、生産開始のとき、そのほかに、もしも、 それはすなわち、 つまり、しかし、ただし、もしも、皆さんに、最近新たな発展があり、(一部の)地区で、


 原稿がない場合はサイトラよりもオミットされる部分が多いのではないか、と予想していたが、確かに実例2では(この報告では文字化していないところで)割合大きく飛ばしている部分もあった。


 実例1では、構文上の比較的大きな違いが見られる部分がある。トラブル発見のくだりでは、言葉をひろいつつ無理に文としてまとめているようであるし、また「従業員の80%」云々の部分でも、同様の苦労のあとがある。これは、原稿を見ていないためか、あるいは原稿のいま話されている一部分だけしか見ていなかったのか、どちらかが原因であろう。ただ、原稿を持っていても途中で原稿を見るのがうっとうしくなってくることが多いので、おそらく見ていなかったのだと思う。

 実例2でTLの「最近新たな発展があり」は、「この技術は、」と始めてしまったので自分のミスを糊塗しようとしているらしい。また「一部で試験中」をなぜ「一部の地区」と言ってしまったかといえば、TLでは「一部」のつぎに何か名詞がなければ落ち着かないと感じたためである。

《結論》
 以上ふたつの実例から原稿の有無が訳出に大きな影響を与えているとは、あまり考えられない(もっともサンプル数がかなり多くなれば両者の差異が出てくるかもしれない)。 もっとも、これは通訳経験年数によってもかなり差があると考える。初めて同時通訳をしたときには、原稿べったりで、発言者をちらとも見ることができなかったが、実例1であげた会議のスピーカーが話している様子などを見ていた気がするので、原稿は手元にあっても実際にはサイトラとはいえなかったかもしれない。
 分析の結果では両者は多少の差異はあったが、さほど顕著なものではなかった。
 また、正確かつ忠実であるかどうかは、1行めのSLと3行めのTLの直訳を比較してみれば判断できると思うが、実例1のほうがやや勝っているように思う。実例2では、スピーカーが言っていないことまでTLに出現している。
 被験者によって結果はかなり異なると思うので、同様の分析を訓練生などでも行ってみたい。

                                    以上