INDEXページに戻る

 秋は特に忙しい季節です。

 普段は比較的ゆとりのある生活をしている私ですが、今年は十月の初めから、通訳業務に限らず、いろいろな仕事が続きました。今日は、翻訳通訳を生業としている人間が、繁忙期にはどんな状態であるかをご紹介しましょう。

 私は通訳の他にも翻訳と通訳学校の講師もやっています。

 教える仕事では、十月に通訳学校の秋学期開講、某政府機関での翻訳通訳講習、通信教育の添削という三種類の仕事が同時進行となりました。このほか、他の先生の代講が一回。
 つい先日まで、この状態が続いていましたが、明日中に通信教育の解答例を送信すれば教えるほうは一段落です。年明けの一月中旬あたりになると、またこれらの三種類の講師業が同時にスタートすることになりますので、冬休みの間に、その準備を済ませておく必要があります。

 翻訳の仕事は十月のあたまから大量の仕事が入り、まとまった仕事の合間に細かい翻訳を片付けるといった調子でした。このまとまった量の仕事は十月末日の納品で終了し、その後十一月に細かいものがいくつか、それから出版翻訳(中国で話題になった『羊の門』という小説の翻訳)があり、これを十一月末日締め切りで納品。この間、隔週で字幕翻訳のチェッカーの仕事が入ってきます。普段なら、大した負担ではないのですが、他の仕事や翻訳の納期に追われている時には、ちょっとため息が出ます。
 また、昨日まで関西に出張していたのですが、急ぎの翻訳が大阪のホテルまで追いかけてきて(ホテルにチェック・インした時にクライアントからのFAXを受け取り)、ホテルの部屋でノートパソコンを使って翻訳をしていました。
 とにかく、今年の秋は、特に翻訳の仕事が途切れなく入ってきていたので、他の仕事の合間にちょこちょこと常に翻訳をやっているという感じでした。

 雑誌の原稿を書く仕事も途中でちょっと入りました。約7,000字程度のものなので、量的にはそれほどのものではありませんが、いつも翻訳ばかりしている者にとって、オリジナルの原稿を作成するのは、そう気楽なものではありませんでした。これはアルクの『通訳事典』のための原稿で、中国語通訳者の仕事に関して書いています。来年の二月に出版されるので、是非、ご一読いただけたらと思います。

 通訳の仕事は、主に十一月中旬から昨日まで断続的に続きました。内容的には、科学教育に関する国際セミナーが二日間(事前準備に要した時間が三日間もかかった!)、経済問題関連の会議が一日、品質管理(QCサークル活動の手法など)に関する国際セミナーが四日間、それから博物館や美術館の運営管理と展示に関する視察随行が四日間でした。日数的にはそれほどでもないのですが、事前準備の時間や拘束時間を考えると、わりとキツイ日程であると言えます。

  科学教育セミナーは、とにかく内容が非常に難しいものでした。論文発表をなさる先生方は全員が欧米の大学院で物理学博士、哲学博士、教育学博士などなどの学位を取得された方ですし、おひとりの持ち時間が30分ということで、一日に発表される人数が多い(それだけ多くのテーマがある)、しかも時間制限のために非常に内容を圧縮してお話になるため、通訳者は一時たりとも気を抜くことは許されません。脳に対する負荷がすごく大きい仕事だと思いました。

 経済関連の仕事は、自分でも比較的わかっている分野でもあるので、それほど疲れません。たまにはこういう割に楽な仕事もあります。

 品質管理に関する国際セミナーは、時間が長いのが辛かった。どうしても時間がおしてきて、毎日お昼休みが30〜40分しか取れず、あまり休憩できません。また、朝9時開始で、終了が午後6時なので、一日中ずっと話し続けているような感じです。場所は我が家から二時間ちょっとかかる遠いところで、毎日往復四時間十分くらいかけて、四日間通ったので、とても疲れました。
 それから、自動車の部品製造に関する改善の話題が主として話されたのですが、細かい部品の名称がいろいろ出てくるし、技術者が当然のことのように話すコトバがわれわれ素人にとっては非常に分かりにくい。傍らに『汽車字典』(「汽車」は中国語で「自動車」のこと)を常に用意して発言を聞きました。
 この仕事でひとつショックなことがありました。セミナーで使用された言語は、日本語・中国語・英語でしたが、英語の通訳者が途中で交代させられたのです。クライアントの会社の偉い人が別の通訳者に換えろ、と命令したらしいです。私の印象では、日本語から英語に通訳しているときには、ほぼ100%忠実にやっていたと思うんですけど、どうも英語から日本語に訳されたコトバが、ちょっと不足気味というか、わかりにくいというか、いずれにせよ、日本語の完成度の問題だと思います。私は、その通訳者が英語から日本語に訳したコトバを更に中国語に訳す、いわゆる「リレー通訳」をしたのですが、確かに理解に苦しんだ部分もありました。通訳者がクライアントからクレームを受けないためには日本語の力がいちばん大事だとあらためて思いました。

 博物館や美術館視察の随行通訳は、東京の「江戸・東京博物館」を皮切りに、京都府、滋賀県、大阪府で一日あたり平均二カ所の博物館等を訪問し、館長さんや学芸員の方とお話をする仕事でした。ただ展示を見学するのではなく、収蔵品の収集方法、予算や経費を含めた博物館の運営管理、企画展示の立案から実施、対外的な広報や博物館内部で開催するセミナーや市民講座の内容、博物館建築のあり方、展示品の保存ケース内環境をいかに維持するか、最も鑑賞しやすい照明や光源の取り方等々、博物館にかかわる、ありとあらゆる角度からのお話になり、非常に興味深い内容でした。これらの内容は、ほとんど事前には予習できなかったわけですが、さほど高度に専門的なものではないので、ある程度の背景知識と常識があれば通訳の難度は高くないと思います。
 海外からのお客様が博物館の館長先生ご一行ということで、いわゆるVIP扱いとなり、関西での移動は全てジャンボ・ハイヤーを使う贅沢なものでした。ハイヤーの運転手さんも、おそらくベテランの方だったのでしょう。私たちの日程に関して適切なアドバイスをしてくださり、スムーズに全ての日程をこなすことができました。
 ただ、通訳者にとっては、VIPということなので朝食から夕食まで、ずっと常にそばについてお世話をすることになり、勤務時間が長くなって、かなり疲れる仕事でもありました。ただ、幸いなことに館長先生はとても気さくなかたで、食事中にもジョークを連発するような方だったので(まあ、それを訳すのはちょっと難しいにせよ)、それほど気を使わずに済みました。勤務時間の長さをのぞけば、たいへん楽しい仕事だったと言ってよいでしょう。

 だいたい、忙しい時期はこんな感じです。明日からまた三日間、仕事が入っているので、今年は22日で仕事納めとなる予定です。それから年賀状を作って、大掃除をして、お正月の準備になるので、年末まではバタバタしそうです。では、皆様、よいお年を! 1999年12月19日